この日は『名古屋の喫茶店』著者でライターの大竹敏之さんをお招きして、豆のおつまみや小倉トースト、モーニングなど愛知県特有の喫茶店文化から、人々の気質やコミュニティのあり方についてお話いただきました。
まず、名古屋の喫茶店王国ぶりを数字で解説されました。喫茶店関連のデータでは名古屋は軒並み上位でありながら、家庭でのコーヒー消費量は全国49都市の中で42位と非常に低く、名古屋人はコーヒー好きではなく、あくまで喫茶店好きということがわかりました。
大竹さんによれば、名古屋の喫茶店好きのルーツは「歴史的に見ると江戸時代の『茶の湯』ブームに繋がっている」とのこと。この地方では庶民にもお茶文化が根付き、戦前までは各農家に野点道具があり午前と午後の一服が欠かせなかったようで、この「お茶で一服」という文化が現在の喫茶店文化の基礎になっているのだそうです。
また、モーニング発祥の地という説もある一宮の喫茶店文化の発展については、繊維産業が盛んな頃、工場の織機の音が大きく、社内に商談スペースを設けられなかったことがその一因であると説明されました。「ドライな割り切りを好まず、相手の気心が知れてからでないと取引が始まらない」といわれる名古屋特有の商談スタイルのニーズに応えた結果、モーニング文化などが生まれ、また喫茶店自体が重厚な内装で個室に近い雰囲気を持ち、長居ができる空間設計になっていったのではと話されました。
さらに、カフェと喫茶店の違いについて、カフェはオーナーの強いこだわりがあって厳選された空間になっているが、喫茶店は来るものを拒まないとても受け身な空間で、ときにはまるで自宅のように亀の剥製やお土産のフラッグを陳列し、なごめる空間を作っていると解説。「喫茶店は飲食業のなかでも一番大衆的な文化だからこそ土地柄が良く出る」とも話されました。
お話の中では、トリエンナーレの会場になっている「純喫茶 クラウン」や、岡崎会場付近で発見された「喫茶 丘」など多くの地元の名店と特徴が紹介されました。ぜひ大竹敏之さんの著書『名古屋の喫茶店』を携えて、ユニークな世界を持った喫茶店を見つけながら、愛知県独自の喫茶店文化に触れていただければと思います。
(あいちトリエンナーレ2013アシスタントエデュケーター 福岡寛之)