10月5日開催のオープンアーキテクチャーでは、完全自給自足の合理的な生活をするために、考えに考え抜かれた結果生まれた「コルゲートハウス」を訪ねました。コルゲートとは、薄鋼板製の土木用パイプで表面が波形になったものを言います。
受付を済ませた20人ほどが列になって、期待感と緊張感でそわそわしながら林の中を行くと、突如それは現れました。蜂の巣のような六角形が並んだ楕円形のドラム缶がゴロンと横たわっている、迫力の佇まいです。その姿に、思わず「わぁ...!」と声をもらす方もいらっしゃいました。
外回りを自由に見学した後、靴を脱ぎ室内に入りました。曲線を描く、柱のない一続きの空間。そして少しの薄暗さ。不思議と心が落ち着きました。ガイドは、この「コルゲートハウス」をつくった故・川合健二さんの奥様であり、現在も住まい手である川合花子さんと、学生時代から健二さんを慕っていた真木兼男さんと奥様の令子さんです。三人を囲んで和やかにトークが始まりました。健二さんの思い出や、「コルゲートハウス」ができるまでの裏話などを聞きました。親交の深い三人が集まったからこそ、伺える話がたくさんありました。
「丈夫で安い家であること。」
「何にも繋がれず、自由であること。」
「コルゲートハウス」には、健二さんのそんな想いが込められており、選ばれた素材や形状の一つ一つに、歴とした理由があります。敷地も、一家が食べていくのに必要とされた広さを確保し、エネルギーも含めて自給自足を目標としたそうです。
部屋の薄暗さも意図的なもので、「考え事をするなら暗い方がいい」という健二さんの考えから、安定している北側の光を残し、以前あった南側の窓はふさいだということです。また、「弧を描く空間は母親の子宮のなかにいるのと同じ感覚なので人間が落ち着く空間だ」とも健二さんはおっしゃっていたそうです。確かに、まるく薄暗い空間に、松ぼっくり形の照明がオレンジ色の光を発する姿はとても安心感がありました。
トーク後は2グループに分かれて2階と外回りを見学しました。
2階の見学は令子さんにガイドいただきました。階段を上がって行く途中には機械室と台所があり、そこの天井と壁の一部になんとガードレールが使用されていました。工業製品はローコストかつ強度のある建材にもなるのですね。二階のバスタブとトイレは健二さんが集めたアメリカ製のものを使っているのだそうです。
見学の間も、1階にいる花子さんと2階の私たちは開放的な吹き抜けを通じて、会話したり、気配を感じ合ったりしました。健二さんとお住まいの頃もこの吹き抜けを通じてコミュニケーションをとることがよくあったそうです。
外回りのガイドは兼男さんにしていただきました。まず玄関を出た北側の場所に、朽ちかけたポルシェや古いウニモグが置いてあるのが目につきました。健二さんはポルシェのエンジン音が好きだったそうで、ウニモグは元々、牧場をしようと思い、買ったものだそうです。二つとも、土に還るべきものという考えでそこに置かれていました。
どっしり横たわっている「コルゲートハウス」には基礎がありません。言ってしまえば、砂利の上にただ置いてあるような状態で、健二さんの言葉を借りれば、これは建築ではなく「寝築」。地震に強い構造です。そしてなんと、地下には50年間メンテナンスフリーの下水処理設備が埋まっていました。健二さんが自分で考え作ったものだそうです。現在は残念ながら使われていませんが、下水のことまで考えていたとは驚きです。
今回のタイトルは"生き方がかたちとなった妥協を許さない哲人の家"。タイトルどおり、「コルゲートハウス」の力強さとともに、ちょうど本年10月に生誕100周年を迎えた、健二さんの考え方を体感することができました。
(オープンアーキテクチャー推進チーム員 守田真子、学生ボランティア 依田紋佳)