挑戦と失敗を繰り返し、一時は描くことを封印していた東京大空襲に再度挑んだのは、2001年にニューヨークで起こったテロ攻撃9.11がきっかけ。「テレビで見た時、神風特攻隊と真珠湾攻撃のパロディかと思った。月並みに平和を謳った絵画は少なくないが、現代のゲルニカとなるような作品を描きたいとあらためて思った」という岡本さんは、太陽神アマテラスを絶対化し、絶対神として天皇を崇めてきた大日本帝国の崩壊を、古事記と絡めながら描けないかと考えました。「さくら」は、まさに日本を象徴するイメージ。「ころがるさくら」という言葉には、大日本帝国の崩壊だけでなく、国民の歴史観や精神性の転換という意味が込められているように思えます。

　《ころがるさくら・東京大空襲》は17点組みの大作。一見すると明るい色調でポップな印象ですが、細部をよく見ると、米軍機や花火などの絵柄をはじめ、経文や神話の神の名前、歴史上の事件名など文字がびっしりと描きこまれ、古代から大日本帝国の終焉に及ぶ一大叙事詩のようです。そこからは、戦争と平和を単純な二項対立としてではなく、連続する概念として捉える岡本さんの歴史観が読み取れます。

（あいちトリエンナーレ2013エデュケーター　田中由紀子）

　名和さんといえば、動物の剥製の表皮をガラスビーズで覆い尽くしたり、箱の表面に貼られたプリズムシートによって中のオフジェの異なる角度で見た像が現れたり、白く発光する水面に均一な泡が現れては消えるといった〈PixCell〉シリーズで注目されていますが、PixCellとは、画素のピクセル（Pixel）と細胞のセル（Cell）を合わせた造語。「Cellという言葉は、創作のベースとなる概念であり、フォーマットや制作の方法論にも影響している。世界の見え方や、ものの生成もすべてそういう見方ができるのではないかという考えのもと、15年くらい制作している。Pixelのセルともじって、映像の細胞のような作品をつくってきた」と語る名和さん。ガラスビーズ自体が映像を映し出す装置になることに気づいたことから、〈PixCell〉シリーズが始まりました。

　新作《フォーム》は、Cellが無限に発生するPixCell [LIQUID]に該当する作品。静かで不穏な美しさを表現するために、天井と壁をすべて黒く塗り、床に水を張るため床面に防水加工を施し、黒い砂利を敷くという会場づくりから始めました。「3階まで上って暗い通路を通り抜け、展示空間に一歩足を踏み入れると別世界だったという体験をしてほしかったので、ザクザクとした足元の感じも大切だった。そのために23トンもの砂利を手で運び入れなければならなかったし、気圧や温湿度により泡の制御も難しいが、シンプルでありながら普遍性が感じられる作品ができた」とのことです。

　《フォーム》は来場者から高い評価を得ている作品ですが、制作にまつわる苦労に驚かれた方も多かったようです。「作品に集中してもらうためにも、どうつくられたのか苦労を感じさせてはならない」という名和さんの言葉をお聞きし、あいちトリエンナーレをつくる一スタッフとして、私も身が引き締まる思いがしました。

（あいちトリエンナーレ2013エデュケーター　田中由紀子）

　彼は5年をかけてアメリカ合衆国の25州をめぐり、エネルギーの生産と消費に関わる場所を撮影してまわりました。それを自分では「エネルギー・ツーリズム」と呼んでいるそうです。例えば、オハイオのチェッシャー。地域住民からの反発を恐れた電力会社は、発電所付近の土地を通常の何倍もの土地代で買い取りました。そのため、200世帯がそこから移住し、町は死に瀕しているそうです。また、ラスベガスの繁栄は、人造湖であるフーヴァー湖の水力発電に支えられています。干上がったフーヴァー湖の風景は、自然と資源が決して無限ではないと痛感させます。

（あいちトリエンナーレ2013アシスタントキュレーター 中村史子）

　岡本さんによれば、路上観察は赤瀬川らが「トマソン」と呼ぶバブル時代につくられた無用物（建物に取り付けられた不要な階段など）を発見し、見立てることのおもしろさからブームになりましたが、考現学は見立てとは違い、多くの事例を採集することにより社会の背景や関係が見えてくるそうです。そして「物は名前をなくすと、ただのモノになる。あらゆるモノを仮説とし、疑うことから始めるのが大切」と考現学の方法を説明しながら、便器や火鉢に植物を植えたり、イスやタイヤを車止めに転用する例を紹介。廃物の再利用から考えられた豊かさへの知恵や、少しでも美しくしたいという欲望から生み出されるユニークなデザインは、アートにもつながると話されました。

（あいちトリエンナーレ2013エデュケーター　田中由紀子）

　見学の最後は、その開放感を存分に味わう時間となりました。スロープの各所に参加者それぞれが居場所を見つけて、宮本さんに質問タイムです。気持ちのよい風で木漏れ日が揺れるなか、笑顔で会話が弾みました。この体験も、すべては自邸を開放いただきましたお施主様のご厚意あってこそ。この場を借りて改めて感謝申し上げます。

（オープンアーキテクチャー推進チーム 道尾淳子、学生ボランティア 三宅航平）