オープンアーキテクチャー企画第7弾は、「CmSOHO」と同じ建築家、D.I.G Architects吉村さん夫妻設計の個人邸「M House」へ伺いました。このプログラムの特長は何と言っても、参加者5名の少数制(全3回実施)。空間やガイドを独占できるという意味で、全企画中最も贅沢な内容となりました。
『敷地探しのとき気付かず通り過ぎてしまいました。』という間口5メートル×奥行き25メートルの道路のように細長い敷地。住まい手の松原さん夫妻は当初、どの建築家に設計を依頼するか複数候補を立てていたそうですが、まさかこの状態をさらに細く二分して、両者を上下にずらしたボリュームで提案してくるなんて、初期案から圧倒的なものがあったと話してくれました。
前面道路から見ると、二階の大きなボリュームがあまりに張り出しているので、どうして浮いていられるのか考えてしまいます。一見してはわかりにくいですが、安定した建築構造の実現と『柱で支えてしまうと駐車の際邪魔になるので。』という配慮に基づいているとのこと。カタチの格好良さには理由があるのですね。
一階のボリュームは白い扉一枚の大きさです。扉を開けたその先は、敷地の奥行きをいっぱいに使った土間空間が続いています。天井には一直線の光線が走り、周囲の壁はこれに交差するように斜めに配され、遠近が強調されてみえます。視線の先にある緑道のしだれ桜に誘われ歩を進めると、二層吹き抜けの空間に極めてシャープな黒色のらせん階段が。背後の大窓を分割するサッシと相まって抽象絵画のような美しいシーンです。
らせん階段を上がった二階は、室内の有効幅が3メートルというのに狭さを微塵も感じません。『長さのある空間は広い』との言葉が腑に落ちます。ここは東西に筒抜けの空間で、立地が高密な住宅街でありながらその先の見通しを遮るものがありません。空間の中央にはアメリカン・ブラックチェリーの一枚板でできたダイニングテーブルと黒い箱状の収納が置かれ、ここでもまた細長く空間が分節されています。東奥の寝室まで続く両側二列の長い廊下。キッチン、サニタリーも一筆書きで回遊可能なように配され、廊下が必要時に生活機能を果たす床になります。日の出から日の入りまでを教えてくれる東西の大開口、北面の安定した採光、南側の斜めに切込んだトップライトと、室内の白い壁にはさまざまな光の状況が映し出されます。
白い壁とは対照的に、使えば使うほど風合いが出る木製の家具。ダイニングテーブルを囲んだ語らいの時間では、建築家との家づくりとその後の生活の楽しみ方について、どの回も会話が弾みました。
すべての回が終了すると静かに雨が降り始めました。天気が保って良かったと一息。
ご協力いただきました皆様、本当にありがとうございました。
(文=オープンアーキテクチャー推進チーム 道尾淳子、学生ボランティア 三浦夏美)