10月14日、愛知芸術文化センター12階アートスペースGにて、パブリック・プログラム クロス・キーワード「ベケットへ/ベケットから」を開催しました。京都市立芸術大学学長の建畠晢さんとあいちトリエンナーレ2013パフォーミングアーツ統括プロデューサーの小崎哲哉さんに、パフォーミングアーツの演目を構成する上で核となったサミュエル・ベケットの世界観についてお話しいただきました。
1969年に『ゴドーを待ちながら』などの不条理演劇でノーベル文学賞を受賞した、アイルランド出身のサミュエル・ベケット(1906-1989)は、20世紀を代表する劇作家、小説家、詩人です。今回のパフォーミングアーツの15演目のうち、9作品がベケットの著作やベケットにインスパイアされたもので構成されています。なぜベケットなのかについて、小崎さんは「ベケットの不条理演劇に一貫する『人間とは、生とは何か?』という主題が、五十嵐さんが提唱するテーマに通じると考えた」と話されました。
「国際芸術祭の場で2つのことを考えたかった。一つは芸術における継承という問題。昔から連綿と続いているものを、後世に引き継ぐのも芸術祭の役割。もう一つは、あいちトリエンナーレの二本柱となっている視覚芸術と舞台芸術を架橋させることだった」という小崎さん。ベケットとチェコの詩人で元大統領のヴァーツラフ・ハヴェル、ハヴェルと参加アーティストのイリ・キリアン、そしてベケットと20世紀の最も重要な作家の一人として評価されるジェイムズ・ジョイスとの関係に触れながら「ジョイス、ベケット、ハヴェル、キリアンという流れがヨーロッパにはある」と、当初はオファーを断られたというキリアンの起用にこだわった理由を明かされました。また、ベケットのテキストを引用したジョセフ・コスースや、『ブレス』を映像化したダミアン・ハースト、舞台演出のためにゴドーの木を制作したアントニー・ゴームリーなどを例に挙げ、現代美術へのベケットの影響の大きさについて言及されました。小崎さんによれば、ベケットの『しあわせな日々』の舞台装置の小山の影響は、クリスチャン・ボルタンスキーによる古着の山やソン・ドンの作品に見られる廃物の山、会田誠が描くサラリーマンの死体の山などにも見出すことができるそうです。
ベケットをテーマに卒論を執筆したという建畠さんは「あいちトリエンナーレには現代美術とパフォーミングアーツが組み込まれているが、それは愛知芸術文化センターがギャラリーと劇場の両方を備えているからではなく、美術と舞台芸術が近い関係を結ぶ時代を迎えつつあることを反映している」と話されました。そして、この日鑑賞したという、ARICA+金氏徹平による『しあわせな日々』の感想を交えながら「ムダ口が延々と続き、繰り返され、そして突然終わる。死をテーマとしながら、死の瞬間を描いた作品はない」とベケット作品の特徴を述べられました。
詩人でもあり、前回のあいちトリエンナーレの芸術監督も務められた建畠さんのお話は、現代美術とパフォーミングアーツの関係をあらためて考える機会となったのではないでしょうか。
(あいちトリエンナーレ2013エデュケーター 田中由紀子)