さて、その内容はスタッフの期待を越えた詩情豊かなものでした。ミッチ氏の撮った写真が音楽と共にスライドに映し出され、それに合わせて彼がテキストを読み上げます。作品解説というより、それ自体が一つのパフォーマンスのようです。

　エネルギーをめぐる社会の構造を調査する過程では、落胆させられることも多かったそうです。それでも、「ドロシーがカーテンをめくってオズの魔法使いの秘密を明らかにしたように、自分もエネルギー製造を覆っていた秘密のカーテンを開き、全貌を見ることができた」という言葉が印象的でした。

　考現学とは、衣食住にまつわるさまざまな日常の事物の観察から、現代の世相や風俗を捉えようとする学問です。1923年に今和次郎が関東大震災後の東京でバラックの建て方をスケッチして研究したことに始まり、過去の事物を対象にする考古学をもじって考現学という言葉が生まれたそうです。1986年に出版された赤瀬川原平、藤森照信、南伸坊らによる『路上観察学入門』が火付け役となり、1988年頃から注目されるようになりました。

　「私たちは仮想情報の中で生きている。情報を得ることでわかったつもりになっていることが多いが、自分の目で確かめること、自分の目に映る物を疑ってみることが重要」という岡本さんの言葉は、インターネット等で簡単に情報が取り出せる現代に生きる私たちの、事物や事象の捉え方を問い返すものであると同時に、アートの見方そのものであるように感じられます。「マスコミが扱わないような日常の事物をまず確かめ、疑ってみるといい」と岡本さんが言うように、考現学の方法を意識することにより、ありふれた日常やいつものまちの風景の中に、思いがけない発見をすることができるに違いありません。

　最後にペルジョヴスキは、未だ何者かによって規制されるパブリックスペースやコピーライトの問題、独裁政権時の宮殿が今日も立ちはだかっていることに警鐘を鳴らしました。

　まず、名古屋の喫茶店王国ぶりを数字で解説されました。喫茶店関連のデータでは名古屋は軒並み上位でありながら、家庭でのコーヒー消費量は全国４９都市の中で４２位と非常に低く、名古屋人はコーヒー好きではなく、あくまで喫茶店好きということがわかりました。

　さらに、カフェと喫茶店の違いについて、カフェはオーナーの強いこだわりがあって厳選された空間になっているが、喫茶店は来るものを拒まないとても受け身な空間で、ときにはまるで自宅のように亀の剥製やお土産のフラッグを陳列し、なごめる空間を作っていると解説。「喫茶店は飲食業のなかでも一番大衆的な文化だからこそ土地柄が良く出る」とも話されました。

　79のキーワードとは、トリエンナーレに関わるスタッフが、今回のテーマ「揺れる大地―われわれはどこに立っているのか：場所、記憶、そして復活」から想起してまとめたことばです。クロス・キーワードの内容に反映したり、ベクトルワークショップで用いたり、キッズトリエンナーレでは参加者が言葉を連想していくプログラムに活用したりと、来場者と共に作品やテーマを考えるためのツールとして活用しています。

　進行役の福岡さんが「このキーワードは来場者と作品、被災地と愛知をつなげる点で役立っている。鑑賞後のちょっと重い気持ちを整理できる」と、クールダウンオアシス（アートスペースHで9/1～29に開催）に訪れた来場者に、壁に大きく描かれたフロアマップの作品に該当するキーワードを貼っていただく中で、来場者から得られた反応について話すと、「キーワードありきで作家や作品が選ばれたわけではないが、作品を見るための入口としてキーワードが役立つ」（飯田さん）という意見が。

　後半では、79のキーワードの機能である「つなぐ」ということから、人と場所をどうつなげていくかについて議論されました。「クールダウンオアシスのような場所が、継続的にあることが大切」（武藤さん）、「地域の人が自分たちの祭りと思わないと、県の事業でも継続していかない。3年後は違うテーマであいちを見直していくことになるが、残るべき人は残り、変わるところは変わっていくことが継続につながる」（飯田さん）、「地域のポテンシャルを有効につなぐことが重要。今回は地域の大学を思ったほど巻き込めなかったのが課題」（五十嵐さん）、「大きな芸術祭の後には、まちなかで小さな活動がいくつも生まれる。トリエンナーレに関わった人がこうした活動を継続させていくことが大切」（菊池さん）と話されました。