Case study 5, South Korea:
Gwangju Biennale: http://www.gwangjubiennale.org/eng/
Mediacity Seoul: http://www.mediacityseoul.kr/
Anyang Public Art Project: http://apap2010.org/
Moderator: KIM Hong-Hee


このセッションは韓国のビエンナーレを集めて、それぞれの設立経緯や事業紹介がされました。
「光州ビエンナーレ」は、本フォーラムの共同主催者で光州ビエンナーレ財団会長のイ・ヨンウLEE Yongwooが、1995年の初回から163万人の来場があり、光州がアジアの中心的なビエンナーレとしてその名を馳せてきたこと、「メディアシティ・ソウル」は先頃閉幕した第7回目の芸術監督ユ・ジンサンYOO Jisangがナム・ジュン・パイクとマルセル・デュシャンを念頭にメディア・アートの「テクノロジー」が意味するところを問うテーマを説明。アンヤン市が主催する「アンヤン・パブリック・アート・プロジェクト」はキュレーターのぺク・ジスクBECK Jee-sookがロンドンに拠点を置く「Artangel」(http://www.artangel.org.uk/)やニューヨークの「Creative Time」(http://creativetime.org/)を参考例として創始された経緯をプレゼンしました。

 

Case study 6, Asia and its Margins:
Sharjah Biennial, UAE: http://www.sharjahbiennial.org/
Istanbul Biennial, Turkey: http://bienal.iksv.org/en
Ural Industrial Biennial of Contemporary Art, Russia: http://en.first.uralbiennale.ru/
Meeting Points, Arab World: http://www.hkw.de/en/programm/2012/meeting_points_6/meeting_points_6_68531.php
Moderator: HOU Hanru


ケース・スタディ最後はシャルジャ、イスタンブール、ロシア、アラブといった、中国やインドと並んで世界的な注目を集めている地域のビエンナーレのセッションでした。(本レポートはあいにくシャルジャのプレゼンまで。)シャルジャ・アート財団会長のフール・アル・カーシィミィHoor Al-Qasimiのプレゼンでは、中東では歴史が長い「カイロ・ビエンナーレ」(1984年設立)に続いて1993年に第1回「シャルジャ・ビエンナーレ」が開催された後、ドクメンタ11(2002)を見て変革の必要性を感じ、2003年に従来型の国別展示から個々のアーティストと作品に焦点を向ける転換を図った経緯が話されました。2009年に財団を設立以後、現在の体制に至ります。なお、来年3月から始まる次回の芸術監督は長谷川祐子氏です。

 

 

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会場デザインは韓国のアーティスト、チェ・ジョンファ

Venue design by Korean artist CHOI Jeong Hwa

 

Biennial Representatives Meeting:
二日間に渡って開かれた一般公開の「ケース・スタディ」閉会後に非公開で行われたこの代表者ミーティングでは、フォーラムでも繰り返し議題に上ったビエンナーレの必要性、意義についてと、サステナビリティの問題、新たなビエンナーレのアライアンス設立の可能性について討議されました。アライアンスに対して寄せられたその役割や期待に関して、具体的に上がった点は以下:
・査証発行の代理機能を担う(実際、ケース・スタディ4のモデレーターMarie Le Sourd が事務局長を務めるブリュッセルに拠点を置く'On the Move'(http://on-the-move.org/)は一部地域のアーティストに対して査証の代理発行機関としての役割を果たしているとのこと。)
・センサーシップの問題を交渉・調停する機関としての機能
・国や地域を超えた財政支援機関としての機能
・事業のサステナビリティのサポート(財政的支援以外に、事業評価の外部諮問機関のような役割を担うなど)
・著作権許諾手続きのサポート
・アーカイヴ機能
・マーケティング戦略の情報交換
・オーディエンスの問題(誰のためのビエンナーレか)
・キュレトリアル・プログラムをはじめとする教育機関としての的側面(若手キュレーターが各ビエンナーレで経験を積むなどの人材育成)

この一連の議論のなかで、アーティスト抜きにこうした議論がなされていることに対する留意を求める意見があったことを記しておきます。多くのキュレーターやアート・プロデューサーといったビエンナーレ従事者が一同に会し、なぜこれだけの時間とエネルギーを費やしてビエンナーレに関する議論をするかといえば、そもそもそこにアーティストがいて、作品があるからです。ホウ・ハンルゥがフォーラム冒頭に増加し続けるビエンナーレの現状についてこう述べました。「中心を求めるのではなく、アーキペラゴ(群島)たろうとしている。アーキペラゴは集合的アイデンティティではない。大陸別の考え方ではアーキペラゴのように異種混合が起こらない。アーキペラゴはトランス・ナショナルである。」アーキペラゴ化したビエンナーレ時代を迎えた今日、「to artists put into the centre.(アーティストを中心に)」の精神は忘れてはならない大前提です。

 

最後に:
今日、時代と各地域の変化を速やかに反映した議論ができ、より人々と地域社会のなかで活動できるのは、美術館よりビエンナーレかもしれません。よく指摘されるのが「美術館は観客に足を運んでもらわなければならないが、ビエンナーレはアートが街と人々のなかに入っていく」という違い。しかし同時に、ビエンナーレには時代に対応する可変的な力があるからこそ、財政的・制度的なサステナビリティと、既存の文化制度とどう共存・連携を築いていくかが共通の大きな課題です。

なぜこの20年間、特にアジア地域でビエンナーレが急増してきたのでしょうか?再びホウ・ハンルゥの初日のリマークから引用します。「なぜアジアか?現実のシフトと政治的緊張が絶えず起こっているのが、このアジア地域だから。アジアはユートピア的な資質と現実の変化の板挟みの状態にあるのです。」アジアに限らずヨーロッパにもそうした緊張状態から必要に駆られて始まったビエンナーレがあることは「ケース・スタディ4 Emergent-Alternative」のセクションで報告されましたが、1980年代後半以降のアジアにおける絶えまない社会的・政治的変動が、シフトし続ける現実と社会の要請に応える新たな文化制度を、この地域内で必要としてきたことは確かです。第一回フォーラムのタイトル「シフティング・グラヴィティ」は、欧米中心的な近代化の目的論から自らを解放し、重心を複数に拡散する現代の文化的カルトグラフィ(地図製作)のシフトを象徴しています。これは2008年の第7回光州ビエンナーレ「アニュアル・レポート」の芸術監督を務めたオクゥイ・エンヴェゾーOkwui Enwezorが提唱してきた「Off centering」 (中心から離れるのでも新たな中心を作るのでもなく、「中心」という概念そのものから外れること)にも共鳴するでしょう。
今日のビエンナーレ/トリエンナーレは、もはや文化的流行や現象ではなく、美術館等とは異なる「文化制度」として、社会で果たす意義と役割があることが実感されました。しかし新旧どちらの文化制度も、アートに携わり、社会と歴史と人々と関わりあっていく存在理由に変わりはありません。競合や相反するものではないのですから、補完関係を築くように共存していく道も、今後さらに議論されるべきでしょう。


【開催概要】
会期:2012年10月27日-31日
会場:韓国光州市キム・デジュン・コンベンション・センター(10月30日はソウル市美術館にて開催)
主催:光州ビエンナーレ財団、ビエンナーレ・ファウンデーション、i.f.a.
共同監督:ウテ・メタ・バウアー、ホウ・ハンルゥ
開催実施:ビエンナーレ・ファウンデーション

World Biennale Forum No.1: Shifting Gravity
27-31 October 2012
Venue: Kim Dae-Jung Convention Center, Gwangju, South Korea
Organised by: Gwangju Biennale Foundation / Biennale Foundation / i.f.a. Institut fur Auslandsbeziehungen
Co-directed by: Ute Meta Bauer and Hou Hanru
Initiated by: Biennale Foundation