2015年5月31日(日)愛知芸術文化センター12階アートスペースA室にて、7回目のトリエンナーレスクールが開催されました。今回のゲストは、あいちトリエンナーレ2016公式デザイナーの永原康史さんとユネスコ・デザイン都市代表者のジョジアンヌ・フランさん(サンテティエンヌ市シテ・ド・デザイン国際部長兼高等美術デザイン学校国際部長)、マリ=ジョゼ・ラクロワさん(モントリオール市都市経済計画部デザイン担当局長)の3名です。また、国際デザインセンターの江坂恵里子さんに進行役を務めていただきました。
まずは、各ゲストの方からそれぞれの活動についてプレゼンテーションしていただきました。一人目は、フランスのサンテティエンヌ市からお越しいただいた、ジョジアンヌ・フランさんです。サンテティエンヌ市は、デザインビエンナーレを長年開催しており、街をあげてビエンナーレを盛り上げている都市です。
サンテティエンヌ市は、約50万人の人々が生活し、19世紀から産業が盛んで、そのどれもがデザインと縁のあるものばかりだということです。歴史的、地域的にもデザインが身近にあることがうかがえます。1998年に最初の国際的なデザインビエンナーレを開催、それとともにデザインの学校が立ち上がります。これによって、都市のイメージが大きく変わりフランスにおけるデザインの首都として認識されるようになったとのことです。
2005年には、サンテティエンヌ市と広域地域、また政府が主導となってデザインに関する様々な活動のプラットフォームとなるデザインセンターを設立します。ここでは、ライフスタイルの提案や人間中心のデザインという概念を広めていき、ユーザー指向の高いデザインを普及していくことを目指したとのことです。
2010年のユネスコ創造都市ネットワークへの加盟をきっかけに、デザインを道具にして経済や社会や文化を発展させていくための戦略がセンター及び市や広域地域、また政府が一緒になって考えられました。その活動を進めるにあたって、新たにデザインマネージャーというポジションも発足したとのことでした。
2年に一度開催されるデザインビエンナーレは、世界中からクリエイターや企業、デザイン学校、編集者、ジャーナリストなど様々な組織や人々が集まってくる国際的なイベントです。そこでは、展示会やセミナー、会議などが開かれ、デザインを作る人同士や、デザインを受ける側の人々との出会いの場となっているそうです。今年の3月に開催された第9回目のビエンナーレでは、市内全体で95の会場を設け、約1ヶ月間の会期中、20万8千人もの方が来場したとのことです。
また、ビエンナーレ開催以外にも、都市への働きかけとしてパブリックスペースに家具の試作品を展示公開し、WEBサイト上でコンペするプロジェクトを実施したり、ラボスペースを設置して国内外の企業に場を提供し試作品をユーザーに試してもらったり、子ども向けのプログラムを開催したりと様々な活動を続けているそうです。このようなイベントを実施していく事で都市がデザインの力によって魅力的になっていくとのことでした。
続いては、カナダのモントリオール市からお越しいただいたラクロワさんからのプレゼンテーションです。モントリオールは、現在デザインを主体に国際舞台へと進出しつつある都市です。なぜデザインなのかというと、デザインやデザイナーというのは文化や経済に対してダイナミックな展開をもたらしてくれると信じているからだとのこと。
モントリオール市は、元々デザインコミュニティーが多く存在し、また有名な教育機関や国際デザイン組織が存在しているところで、そのためクリエイティブなデザインや建築が街に溢れており、市民にとってデザインがかなり身近なものとなっているそうです。1991年には、デザインコミッショナーという役職が設けられ、デザイナーに街の文化や経済に関与するように働きかけてきたとのこと。
その後、デザインによって都市を変化させるアクションプランが2006年に始動したそうです。そのプランは、基本的に8名の専門家によるチームが中心となって、デザインの力によって生活の質をあげること、デザインマーケットを開拓すること、モントリオール市を拠点としているデザイナーの活動を支援することなどをコンセプトに活動を続けてきているとのことです。
数あるプランのうち2つに絞ってご紹介いただきました。1つはデザインと建築によるコンペティションです。600万ドルを投資して進めてきたこのプロジェクトは、図書館やバス停、スポーツ施設、プラネタリウム、リサイクル容器など、建築物から生活用品まで、我々の生活に関わるものが対象になっています。このプロジェクトを続けてきたことで、モントリオール市全体にデザイン性の高いものが溢れていき人々の生活の質が向上することに繋がっていったとのことでした。
もう1つはCommerce Design Projectです。1995年から2005年まで開催されたこの活動は、市内にあるレストランやショップのプロモーションをするというものです。ショップやレストランは、街の中心部にあり、そのデザイン性が高いほど都市としてのデザイン性が高いと言えます。地域住民だけでなく観光で訪れる人にとっても、そのデザインによって都市の印象が大きく変わります。まずはショップのオーナーにデザインに投資することの重要性を説明しプロモーションへの参加を促します。そしてデザイン的に優れた内装や商品開発等をしてもらい、プロモーションを実施してもらいます。その活動に対して賞を設けることで、デザインがビジネスに対して非常に重要なカギである事を印象つけていったとのことです。
最後は、あいちトリエンナーレ2016で公式デザイナーを務める永原さんによるプレゼンです。永原さんからは、「デザインでインタラクションを起こす」という切り口でお話いただきました。
インタラクションとは、相互作用を指します。2005年に開催された愛知万博では、会場と参加者、イベントと観客、観客と社会などインタラクティブな活動を、長久手と瀬戸にあるパビリオン「日本館」とインターネット上にあるWEBサイトパビリオンである「サイバー日本館」で実施したそうです。WEB上の日本館と現実世界の日本館を繋ぐシステム「どこでも日本館」をご紹介いただきました。システムを簡単にご紹介すると、
- WEBサイトで日本館の会員になり、サイト内でゲームに参加
ゲームに参加することで、知らず知らずに日本館のこと、エコロジーのこと、自然環境について学習している - 会場で貸し出されているスマートフォン型の端末に自分の情報を登録
(サイト情報を同期)
事前に集めたポイントで地球のカケラというアイテムに変換 - 帰宅後、地球のカケラを使ってまたサイト内で遊ぶことができる
このシステムは、単に会場内で完結するのではなく、会場に行く前から始まって、さらに会場を出て帰宅するところまで考えられたデザインとなっています。「準備→開始→体験→帰宅→終了」という一連の流れで、そのどれもが欠かす事ができないものだとのことでした。会場に行く前から体験が始まって、実体験を通して活動を深め、終了時に何を得て参加者が帰るのか。始まりから終わるところまでデザインすることを常に考えてプランニングしたとのことでした。
最後にあいちトリエンナーレ2016のメインヴィジュアルについてもお話いただきました。来年の8月に開幕するトリエンナーレのデザインプランニングは既に始まっており、このトリエンナーレに関しても始まりから終わりまでを考えたデザインをこれから考えていくとお話されていました。今回のメインヴィジュアルは、自動で形がランダムに変化する特性を持っています。トリエンナーレのWEBサイトにアクセスしていただいているので、既にご覧いただいていると思いますが、トップページを更新する度にバーが動き毎回異なる角度や高さになっています。これは、コンピューターが自動的に形をつくっており、その変化の仕組みそのものをデザインしたとのことです。テーマである「虹のキャラヴァンサライ」から、動的なダイナミックなイメージ、旅、キャラヴァンする様子などをイメージしてデザインされたとのことでした。
あいちトリエンナーレ開幕まで約1年、これから永原さんがどんなデザインをしてくれるのか、どんな終わりが待っているのか、とても楽しみになるお話でした。
サンテティエンヌ市での活動は、デザインを積極的に利用し、街にデザインとの出会いの場を設けていくこと通して、日常的にデザインに触れる機会をつくることで都市が変わっていくことを知り、またモントリオールは、いかにデザインがビジネスに有効なのかを都市も人も知ることで、デザインの重要性を普及させ、魅力的な都市づくりにデザインが欠かせないということを考えさせられました。さらに、永原さんからはプロジェクトを推進するにあたって、始まりから終わりまでをデザインすることの重要さとインタラクティブなデザインの提案をお聞きすることができました。それぞれアプローチの仕方は違いますが、デザインの持つ可能性の大きさを感じることができるスクールだったと思います。
(あいちトリエンナーレ2016コーディネーター 近藤令子)