TriMemo vol.07「ボスポラス海峡の風」
この9月5日、イスタンブール・ビエンナーレが開幕しました。9月初旬とはとても思えない真夏の気候にもかかわらず、プレビューには多くの人が駆けつけましたが、今回はあいちトリエンナーレのキュレーターのひとり、イスタンブール在住のゼイネップ・オズさんに案内していただけたので、その一端を紹介します。
001 猛暑のなか、町中のわかりにくい会場にたどり着けたのは、本当にこの看板を持った人たちのおかげです。
第14回となる今回のテーマは「ソルトウォーター」。直訳すれば、「塩水」つまり海水ですが、そこにはさまざまな意味が込められているようです。芸術監督はキャロライン・クリストフ=バカルギエフ、前回のドクメンタのディレクションで注目を集めましたが、今回はテーマのみならず、会場構成でも新しさを打ち出しています。
これまではイスタンブール近代美術館を中心にコンパクトにまとめられていたビエンナーレでしたが、今回は中心部のギャラリーだけでなく対岸のアジア側、船で40分以上かかるプリンス諸島、果てはボスポラス海峡北の黒海側と、会場を非常に広範囲に点在させています。船を使わなければ見に行けない場所を多く作ることで、塩水と潮風を直接的に感じることを、テーマとして取り込んでいます。
町中会場も印象的で、元小中学校、銀行、ガレージ、カフェ、民家、ホテルから、なんとトロツキーが住んでいた元屋敷といった、イスタンブール市民にさえあまり知られていない場所が選ばれています。特にプリンス諸島と呼ばれる島嶼会場の選定には、地元のノーベル文学賞受賞作家のオルファン・パムク氏の協力もあったと伝えられますが、いずれにしてもこれは国際的な芸術祭でなければできないことだろうと思います。外国人はもちろんですが、トルコ人にとってもほとんど初めての首都再発見の機会を作ることで、芸術祭の可能性を示したと言えるかもしれません。
すでに広く報じられているように、現在ヨーロッパにはイラクやシリアから紛争を逃れるため、膨大な数の難民がトルコ経由で入っています。政治的緊急を映す水面もまたソルトウォーターなのだということが、じわりと伝わるテーマです。
002 メイン会場の近代美術館。
003 オープニングトークはイスタンブール在住の重要アーティスト、フュスン・オヌール(中央)聞き手にハンス・ウルリッヒ・オブリスト、芸術監督自ら司会を務めていました。
004 薄緑色のテーマカラーで統一されたグッズ売り場。「塩」もしっかり売られてます。
005 セレモニー会場を照らすのは、今年のベネチア・ビエンナーレにも出ていた、サルキスのレインボーネオン。
006 市内のギャラリーで開かれたオープニングには、突然ブラスバンドが応援に。
007 ボスポラス海峡にあるプリンス諸島には船で40分ほどかかります。
008 自動車のない島では、未だに馬車が走り、時間が止まったかのよう。
009 瀟洒な屋敷が並ぶなか、レフ・トロツキーの家は廃墟でした。
010 トロツキーの家を抜けると出現するアドリアン・ビジャール・ロハスの作品。
011 やはりトロツキーのトルコでの足跡を扱った映像インスタレーションを見ていたら、作者のウィリアム・ケントリッジがスクリーンの裏から現れてびっくり。この後のオルファン・パムクとの対談「亡命と釣り」は面白かった。
012 庶民の味よ、とゼイネップさんに教えられた、ムール貝風のスナック。日本人にとっても、どこか懐かしい風味です。