2019年2月20日 トリエンナーレスクール

トリエンナーレスクール第12回

芸術祭におけるボランティア活動の楽しみかた

2019年1月20日(日)トリエンナーレスクール第12回レポート


今回は、当初予定していた内容を変更し「ボランティアスペシャル」として、あいちトリエンナーレ2019芸術監督の津田大介さんと、会田大也さん(あいちトリエンナーレキュレーター[ラーニング])から、芸術祭のボランティアの重要性と意義が話されました。

ATS0120-10.jpg

第1部:芸術祭とボランティア

福島でのイベントプロデュース

2017年6月に、あいちトリエンナーレ実行委員会から「芸術監督に決まりました」という連絡を受けた津田さん、「事後報告!?」と驚きながら、受けようかどうしようか悩んだそうです。そんな津田さんを後押ししたのは東北の被災地で実施したイベントでした。
津波による大きな被害を受けた、福島県いわき市。海が見える場所にあったコンビニエンスストアは、建物の枠組みだけしか残りませんでしたが、オーナーの働きかけで、被災後まもなく移動販売車を利用して営業が再開されました。被災地を取材していた津田さんは、ツイッターで情報提供を受け、その場を訪れました。津波にさらわれ、大きな被害が痛ましい場所ではありましたが「オーナーが結構エキセントリック」で、取材にいくと「ゴジラを手伝って欲しい」と謎のお願いをされ、トラックで運ばれてきたゴジラの頭部を、枠組みだけになった店内に設置しました。「被災してものを買ったり、集まれる場所がない。どうせ集まるなら楽しい方がいい」というオーナーの言葉と、その場所の雰囲気などを感じ、この場所だったら何かできるかもしれない、と思ったそうです。折しも、知り合いのアーティストから被災地でなにかしたいと投げかけられていた津田さんは、「自己満足でおわらず、被災地に貢献するカタチでアーティストとして活動する"必然性"をつくりだしてほしい」という無茶振りに、バスツアー+ライブというひとつのこたえをだします。
「SHARE FUKUSHIMA」(http://www.asaho.net/share-fukushima/index.html)は2011年6月、震災の3ヶ月後に実施され、およそ100名が参加しました。そのコンセプトは次の3つ。

1 アーティストを福島につれていく
 被災地で活動したいと考えるアーティストは少なくないが、「必然性」を必要としていた。現場で感じたことを表現する機会をつくりだすこと。

2 支援したい人の心を満たす
 何か自分ができることで支援したい、ボランティア活動をしたい人は多いが、どうしたらいいか参加方法がわからない人がいる。被災地で迷惑をかけたくないとも思っている。そういう人たちがアクセスできるような仕組みを考えること。

3 現地にお金を落とす
 ツアー参加費と企業協賛金を現地に寄付。昼食なども現地(コンビニ)で購入することで、お金をピンポイントに落とすこと。

これらを軸として、東京から被災地へ行くバスツアーとしてのイベントが実施されました。いわき市に到着後、案内をした区長さんの「ぜひ写真におさめて、心に刻み込んでもらいたい」という声で、被災地の様子を撮影します。ボランティアとしての活動では、瓦礫からゴミを拾い選別する作業を行いました。1時間ほど活動したそうですが、かつて誰かのお気に入りだっただろう、おもちゃや本などを前に、ゴミかそうでないか、悩みつつ作業がすすみます。そして、お昼ご飯はゴジラの置いてあるコンビニで購入。多くの参加者が深刻な面持ちで、空気も重めです。最後は、渋谷慶一郎、七尾旅人などのアーティストによる屋外ライブで締めくくられました。被災地の現状を目の当たりにし、体験し、悩み、音楽に触れてなにかが昇華されたような心持ちになって帰っていきます。津田さんにとってはじめてのイベントプロデュースは大きな意味を持つようになり、2016年と2017年には「LIVE FUKUSHIMA」(https://livefukushima.peatix.com/?lang=ja)を開催するなど、被災地での活動が継続されています。
こうした経験もあって、あいちトリエンナーレ2019の芸術監督を引き受けることにつながりました。

国際芸術祭とは

ATS0120-36.jpg

津田さんが考える国際芸術祭とは「地域資源を活用してアーティストに作品制作をしてもらう、アートによる地域づくりの取り組み」です。こう考えるとき、そこには「祝祭性」「地域振興への貢献」「地元の人の関わり」が含まれます。
日本における芸術祭の特徴を、もう少し詳しくみていくと以下のようになり、「地域」「まちづくり」「ボランティア」がキーワードになっていることがわかります。

1 外部との連携
 外部からディレクターを招き、コンセプトを決定し、行政主導で実行委員会を組織して実施。
2 地域資源の開発
 アーティストが地域の生活に根ざした資源を発見し、それを生かした作品を住民と協働して制作する。
3 市民共同参画効果
 運営に地域内外のボランティアがサポーターとして関わることで、まちづくりにつなげる。

地元の資源を発見し、地域振興に貢献している例として有名なのが、『大地の芸術祭』(http://www.echigo-tsumari.jp)です。北川フラム氏をディレクターに、2000年からはじまった、3年に1度開催するトリエンナーレ方式の芸術祭です。アートによるまちづくりの先例として大きな注目を集めています。経済効果だけでも、2015年開催時は50億円規模の経済効果、雇用の拡大があったと言います。総事業費が4億円前後であることを考えると、コストパフォーマンスの良い事業だと言えます。
『あいちトリエンナーレ』は津田さんからみたとき「結構矛盾している」と思えるそう。それは、愛知県がトリエンナーレを実施するときの「意義」について考えるとみえてくるといいます。

1 世界の文化芸術の発展に貢献
 注目が集まるような質の高い作品を展示すること。
2 文化芸術の日常生活への浸透
 地元の人が「難しくてわからない」と敬遠してしまわないように、「親しみやすい」作品を含めること。
3 地域の魅力向上
 あいちに備わっている魅力を掘り下げ、広くアピールすること。

質の高い作品は必ずしも「親しみやすい」わけではなく、あいちの魅力を掘り下げるよりも、問題点を明るみにするかもしれません。1から3のポイントそれぞれが矛盾をはらんでいると言えます。しかし、ここに60組以上のアーティストが参加することで、一見矛盾にも思えるこれらの「意義」を達成することができるといいます。さらに、『瀬戸内国際芸術祭』と『Reborn Art Festival』と関わりがあるという津田さんは、芸術祭同士で連携をしていけるといいとも考えているそうで、どのような協力体制ができるか楽しみです。

ボランティア

「芸術祭の主役は、ボランティアだと思っています」と言い切る津田さん。
地元の資源を発見することで作品制作につなげていく芸術祭においては、地元とアーティストをつなげるボランティア(=地元の人々)の存在が欠かせません。また、アーティストとの交流を通して発見された地元の魅力や資源を、芸術祭をきっかけに活用していくことができるのもボランティアです。そうした視点でみるとき、ボランティアとして活動することの意義や可能性が大きく広がって見えてきます。

ボランティアとして活動すること

津田さんにかわり、会田さんのトークにうつります。
「Volunteer=ボランティア」は聖書にも出てくる言葉で、自ら進んで活動すること、篤志家、奉仕活動という和訳があてられていますが、大きくは「様々な資源を提供する」という意味だと考えられます。
ボランティアとして活動することには、ボランティア参加者と運営側にそれぞれメリットがあり、例えば、ボランティアとして参加することで得られる経験や技術、新しい人脈、交流関係などがあります。運営側にとっては人件費の問題が解消される点に大きなメリットがあると言えますが、ボランティアをその活動の「ファン」として考えると、深く関わる人が生まれることで、内側からの盛り上がりや裾野の広がりも期待できます。
ボランティアがいるということは、有償で働くスタッフもいるということです。この2種類の違いをはっきりさせておくことも重要です。繰り返しの作業や単純作業については、有償のほうがいいと会田さんはいいます。そうした活動には、新しい技術や経験を獲得できる期待が薄いからです。そうした活動にわざわざ無償で参加することの意義とは何でしょうか。技術や経験が必要だったり、逆にそうしたことを得ることができるような仕事こそ、ボランティアの人が関わるべきだと言えるでしょう。例えば、アメリカではボランティア活動を推奨しており、就職などに有効活用されている例があります。プロボノと言って、弁護士など、特殊な技能を持つ人が、一定時間ボランティアでその技能を提供するといったこともあります。
ボランティアとして活動することで何を得ることができるか、第2部のディスカッションへ1つテーマがなげかけられました。

対話型鑑賞

『あいちトリエンナーレ』ではボランティアとして毎回1000人規模の申込みがあります。活動としては大きく2種類あり、1つが会場運営として案内や看視をするボランティア、もう1つがガイドツアーを行うボランティアです。これまでは、それぞれ別の研修をしてきましたが、今回は少し研修の方法を変え、ボランティアの活動による区別なく、ベーシックに同じ研修を受けられるようになりました。なかでも、「対話型鑑賞」についての研修はこれまでガイドツアーに関わるボランティアに対して行われてきましたが、今回は全てのボランティアが研修を受けることになります。
対話型鑑賞は「VTS(Visual Thinking Strategy)」(https://vtshome.org)とも言われ、アメリカのニューヨーク近代美術館の当時教育部長だったフィリップ・ヤノウィンと心理学者のアビゲイル・ハウゼンらによって構築された手法です。作品や美術の知識とは関係なく、「What's going on in this picture?(この作品の中で何がおこってる?)」をキーワードに、「見えること」から思考を巡らせて作品に深く迫っていく方法で、学校の教育現場でも思考力を高めるとして取り入れられています。物は試し、百聞は一見にしかず、ということで、会田さんをファシリテーター(進行役)に、実際にVTSを体験することになりました。

ATS0120-56.jpg
まずは、ゴッホ《椅子》(1888年)(https://www.musey.net/1435/1436)を対象に行いました。「なにがあるか、気がついたことをどんどん言ってみてください」という言葉に促され、やや戸惑いがちに声があがっていきます。「いすがあります」「部屋の中」「奥に木箱があります」「ドアがあります」「床はレンガでできているみたい」「パイプが置いてあります」と、描かれているものがあげられていくと「内開きのドアなのに、椅子があって開きにくそうだから、入ってきてほしくないという意思表示のよう」と気持ちに注目したり、「遠近感がなんかおかしい」「椅子の脚がおかしい」と構図に気がついたり、あちらこちらと話が飛びながらも、会田さん(ファシリテーター)によってまとめたり、言い換えたり、繰り返したりされることで、少しずつ作品の印象が深まっていきます。
続いて鑑賞したフェリックス・ゴンザレス=トレス《無題(完璧な恋人)》(1991年)(https://www.moma.org/collection/works/81074)では、「時計が2つある」「同じ時刻をさしてる」「いや、秒針が微妙にずれてる」と、少し慣れたのか、どんどんと意見が出てきます。「2つの時計は2人の人をあらわしているのでは?」「間違い探しをしたくなる」といろいろな見方も提案されました。一見すると、2つの時計があるだけだと思われる作品ですが、こうして見ていくと、そこに見え隠れする様々な可能性に気づきます。
今回も『あいちトリエンナーレ』では1000人規模のボランティアの人を募集しています。その1000人がVTSを体験することで、専門知識の有無に関係なく作品を楽しんだり、味わったり、アートを通したコミュニケーションをすることができると知ること・実感することは、「すごいこと」です。
ボランティアとして活動する現場での"できること"や"やりがい"を増やし、アートやトリエンナーレを楽しむ機会をより生き生きと創り出してくれるでしょう。

第2部:ディスカッション

ATS0120-120.jpg

ワールドカフェ形式のディスカッションは、今回も大いに盛り上がりました。
テーマがボランティアということもあり、参加者のほとんどの方がボランティアとして『あいちトリエンナーレ2019』に関わることを決めた、あるいは検討している方々でした。それぞれのテーブルに、過去のトリエンナーレでボランティアとして参加した方が1名以上いるような状況で、ボランティア活動の中でよかったこと、わるかったこと、2019のトリエンナーレで期待していることなど、具体的な話が飛び交いました。
ボランティア経験者からは、よかったこと、意義のあったこととして「いつもとは違う人間関係が築けたこと」が多くあがりました。2016のトリエンナーレで知り合ったボランティア仲間で今も定期的に集まっているという話もあり、趣味が同じというよりもアートに対して同じような、あるいはそれ以上の熱量を持つ人々との交流を楽しんでいる様子が伺えました。
それと逆をいくようですが、「あまり交流を持てなかった」という意見も少なくありませんでした。会場運営のボランティアの場合、数が多いことと、定期的な集まりもなかったため、あまり交流する機会がなかったことも事実です。せっかくの機会なので、顔見知りになったり友達になったりと、交友関係を築けるような機会があると嬉しいという意見がありました。

ATS0120-102.jpg
初めてボランティアに参加しようと考えている人にとっては、時間的な制約が一番の検討事項のようで、研修回数や実際のボランティアとしての活動回数など、いろいろ心配している面もあるようでした。しかし、経験者や、テーブルに混じっていた実行委員会のボランティア担当スタッフに話を聞く機会にもなり、やってみたい、という気持ちを後押しするような時間にもなりました。
参加者の中には、ボランティアとして参加するつもりがない人も、もちろんいました。ただ、そうした人たちが、ボランティアとしてトリエンナーレに関わっている人がいること、その気持ちや熱意などを知るきっかけにもなったと思います。

ボランティア募集は1月末に締め切られ、3月からはいよいよ研修もスタートします。どんな人たちがどんな思いで参加されるのか、逸る気持ちを抑えつつ、第1回目の研修を楽しみに待ちたいと思います!
(レポート:松村淳子、写真:あい撮りカメラ部)