2018年5月11日 トリエンナーレスクール

トリエンナーレスクール 第3回

ワークショップと対話のデザインについて

2018年4月22日(日)トリエンナーレスクール・レポート

新年度がスタートし「あいちトリエンナーレ2019」は、いよいよ開幕まで1年と少しとなりました。昨年度末には、企画体制も発表されましたね。ラーニングプログラムのキュレーターには、過去2回のトリエンナーレスクールでもおなじみの会田大也さんが就任。引き続き、トリエンナーレスクールや「あいちトリエンナーレ2019」のラーニングプログラムを企画していきますので、どうぞよろしくお願いします。
「あいちトリエンナーレ2019」に向けたトリエンナーレスクールでは、様々な分野で活躍されているゲストをお招きし、トークとディスカッションを通して、考え方や学び方を発見していくプログラムとなっています。

〈概要〉

あいちトリエンナーレ2019 トリエンナーレスクール vol.3
2018年4月22日(日)14:00-16:00
『ワークショップと対話のデザインについて』
ゲスト:安斎勇樹(あんざい ゆうき)さん
進 行 :会田大也(あいだ だいや)さん

〈スクールの様子:第1部〉

今回のゲストは、東京大学大学院情報学環特任教授であり、株式会社ミミクリデザイン代表取締役である安斎勇樹さんです。ワークショップの研究を大学で進めながら、自社ではワークショップの実施や開発、ファシリテーターの人材育成などを行っています。東京大学では、会田さんと一緒にワークショップに関する研究も行うことがあるそうです。

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そんな2つの顔をもつ安斎さんに、会田さんから事前に以下の2つのお題が投げかけられていました。

・ワークショップって何?
・創造的に対話するってどういうこと?

この問いに答えるかたちで、トークがスタートします。まずは、今日のお話のポイントが以下の5つのキーワードで紹介されました。

・そもそもワークショップとはなにか
・なぜワークショップデザインが必要なのか
・ワークショップデザインとはプロセス設計である
・プロセスファシリテーションの重要性
・学習環境のデザインという考え方

実践例を出しながらわかりやすく、会田さんの間の手がはいらないほど(!)の勢いで、トーク終了時間までピッシリとお話していただきました。

・そもそもワークショップとはなにか
ワークショップの起源は今から100年以上前にさかのぼります。1905年に演劇の領域から生まれ、時代が進むにつれ、美術の領域やまちづくり、教育の現場や社会変革の領域などに広がっていきました。それぞれで起こる問題を解決するため、現場に合わせた手法が生まれていきました。現在では、とても多様な領域に広がり、手法も様々なため、とらえどころがないものに感じてしまうのかもしれません。

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【実践例】Mimic Comic Workshop
マンガを実演するワークショップ。ジャンル毎に(バトル、恋愛、推理など)グループに分かれ、架空のマンガを設定し、実写でマンガを表現してみる。実際に表現してみると、マンガでは、現実よりも大げさに、極端に表現していることに気がつく。身体を使って追求していくことで、普段意識していなかったマンガのメディアとしての特性を知ることに繋がる。

【実践例】 Ba Design Workshop
未来のカフェをLEGOブロックで制作するワークショップ。複数人で話し合いながら、架空のカフェを組み立てることによって、デザインの力を発見したり、デザインのおもしろさを知ることができる。

どれも、実際に参加することで、見方や感じ方に変化が起こり、他者と取り組むことでさらなる発見ができるものばかりだなと思いました。
ワークショップとは、「普段とは異なるものの見方から発想するコラボレーションによる学びと創造の方法」と定義できるようです。さらに、詳しくワークショップのエッセンスを取り出すと以下の4つとなります。

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ワークショップの歴史や求められていることなどが分かったところで次の項目に進みます。

・なぜワークショップデザインが必要なのか
テーマを設けずディスカッションの場面などで、自由に話し合いをして下さいとしたところで、建設的な対話にはならないのではないか。ということに注目し、さきほど紹介した【実践例】「Ba Design Workshop」のワークショップを使って、全国的に実験をしたそうです。導入や進め方は同じですが、話し合いのテーマに2つの問いかけを用意し、その対話の進み方やアイデアの成り立ち方を調査しています。結果を簡単に紹介しますと、

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参加した人の能力を十分に引き出す、建設的な対話を生み出すには、「その『問い』もきちんとデザインすることが重要だ」と改めて実感できたそうです。

話し合いの成否はお題(問い)の設定で決まる!
自由度の高い問いでは、創造的な発想・議論は生まれてこない
ひねりのある問いが創発を生む

では、「良い問い」があればデザインできているといえるのか?問題解決していく上では、参加者の状況やどんな対話をしていくことが目的となるかを考える必要が出てくるとのこと。

・ワークショップデザインとはプロセス設計である
【実践例】企業でのワークショップ
様々な企業が集まるビルの中で、その経営者たちに向け「真の価値創造とはなにか?」を問うワークショップを実施。アイスブレイクの際に、他社数社の価値を100点満点で採点したところ、それぞれ別のところに「価値」の基準を見出していることがわかった。その上で最初の問いである「真の価値創造」について話すことで、より具体的な議論へと進むことができた。

ワークショップで考えるべき問い ≠ 参加者に投げかけるべき問い
問いたいことをいきなり問うほうがよいとは限らない

なるほど。一番聞きたいこと、話し合ってほしいことを円滑に進めるには、「問い」のひねりも重要ながら、そのタイミングもポイントとなることがわかりました。
プロセスを考えていく上で、その組み立て方を定義したものが次の表になります。

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プロセス設計はワークショップに限らず、会議やイベント、インタビューなど、人が集まってコミュニケーションをする場合にはとても有効であるといえます。プロセス設計することで、持っている時間の使い方も変わってきます。
プロセスを理解し、どんな時間配分にするのか、どのタイミングで本質となる「問い」を入れるのか。大きな課題ではありますが、ここの部分が一番の醍醐味だと感じました。

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そして、同時にそのプロセスを遂行するためのファシリテーションも重要になってきます。

・プロセスファシリテーションの重要性
ファシリテーションは、難しいと思われがちです。その具体的な要因を知るべく、ファシリテーションを経験している155名へアンケートを実施し、その内の16名にインタビューをして分析してみたそうです。
経験年数や領域に分けて調査していった結果、平均的には、創る活動が一番難しいと感じ、次に振り返りの部分が難しく感じていることがわかりました。さらに、経験年数のグラフをみてみると、このような結果になりました。

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初心者と熟練者には、難しいと感じる部分に違いがはっきり表れています。インタビューを通して、具体的な点を聞いていくと様々な問題がみえてきたそうですが、中にはそもそもプログラムのプロセスがきちんと組まれていない、目的がはっきりしていないことも多く、ファシリテーション以前の問題でもあることもみえてきたようです。

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上の表は、困難さを具体的にまとめている表です。ちなみに、この困難さと感じる部分、熟練者の人たちはどのように乗り越えているのかも紹介いただきました。

・情報をうまく導き出す聞き方や観察の方法をもっている
・イントロで必ず盛り上がる「練られた儀式」をもっている
・時間配分で削っていいところ、いけないところの優先順位がある
・学習環境のデザインという考え方

ファシリテーションは、経験値やコニュニケーション能力が重要になるものではありますが、人前に立って話を円滑に進めていくだけがこの役割ではないことを、次に教えていただきました。
コミュニケーションを円滑に進めていくには、よいファシリテーションが必要ですが、それは話術のような部分だけで補えるものではなく、ワークショップを実施する会場・環境の設定も重要な要素の1つになるそうです。

【事例】 即興演劇のワークショップ
対象はビジネスパーソンで、準備された空間は一般的な会議室空間。この中で即興演劇をするのは、かなりハードルが高いと感じ、まずは空間を作りかえた。机と椅子を撤去。床にはラグを敷き、照明を蛍光灯から置き照明に替え、プロジェクターには花火の映像を投影した。すると、ラグの周りに自然と参加者が集まり、小グループを形成しながら自発的に名刺交換などの交流が始まった。

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環境が話し合いの質を左右するようです。環境もデザインすることで、より建設的な創造的な対話を促していくことができるとのことでした。

ワークショップを組み立てる際に、これまで意識せずにできていたこと、意識が及ばなかったことが明確になりました。また、参加者としてワークショップに参加する時には、その問いやプロセスの設計、デザインがされているのかを観察してみたいとも思いました。そして、さっそくなにかプログラムを組み立ててみたい気持ちにもなったトークでした。
ちなみに、今日のお話をより詳しく知りたい方は、以下のWEBサイトから安斎さんが作ったワークショップデザインの入門書を手に入れることができます。
ミミクリデザイン|http://mimicrydesign.co.jp

〈スクールの様子:第2部〉

第2部では、ワールドカフェ方式のディスカッションを行いました。1テーブルに4~5名が着席し、1回10分のディスカッションを、席替えをはさみながら3回ほど行いました。
このディスカッションでは結論を出すための議論ではなく、第1部を受けた気兼ねない意見交換を、様々な人と繰り返していきます。
ファシリテーションの難しさについて、実感している方も多くいたようです。うまく話を進める方法や、話がズレた時の軌道修正の方法など、悩みと解決法を共有し、一緒に考えていく姿がありました。
また、参加者側としてワークショップに臨むとき、どのような心がけをしているか話題にもなりました。自分が参加している時は、いつもよりオーバーなリアクションで臨んでいるという方や、特に意識していないという方など、様々でした。
ファシリテーションをする側に立つと、やはり参加者の反応が気になります。「沈黙」について「怖い/怖くない」どちらで捉えるか。何かを考えている時の沈黙をどうやって見極めたらいいのか、それは感覚でしかわからないのか。視線の動きで読むのではないか。
それぞれの場所で議論が盛り上がっている様子をみることができました。

次回以降も刺激的なトークが続いていくようなので、とてもたのしみです。