2019年5月14日 その他

ボランティア研修

全体研修(第2回)

「あいちトリエンナーレ2019」ボランティア全体研修(第2回) レポート

2回目を迎えたボランティア全体研修。今回は「アートカード」を取り入れ、「作品をみることを楽しむ」ための「語り合って吟味する」ことを体験しました。

全体研修(第2回)4月19日(金)の模様をお伝えします。

アートカード「質問ゲーム」

作品を鑑賞するときに作品解説を頼りにする人は少なくありません。それは間違ったことでもありません。しかし、作品について深く考察し吟味することは、解説を読むことや専門書を開くことだけではありません。

今回のボランティア研修の主軸となっている「対話型鑑賞」では、作品について語り合うことによって様々な解釈や意味をみつけ、作品を吟味することにつながっていきます。そのためには、健やかな対話、議論が必要です。作品を前にした時に、どのような質問をすると活発な議論が生まれ、思考が動いていくのでしょうか。

その糸口を掴む簡単なワークショップを、ラーニングキュレーターの会田さんを進行役に行いました。

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「アートカード」は、作品画像をカードにしたもので、今回使用したのは愛知県美術館が作成したものですあいパック。学校で行われる鑑賞の授業でも使われることがあり、使い方は様々です。カードを使って展覧会を考えてみたり、似たものを探してみたりと目的にあわせて自由に使うことができます。

研修では「質問ゲーム」を行いました。5〜6人のグループをつくり、その中から1人"親"を決め、1人ずつYesかNoで答えられる質問をして、"親"が選んだ1枚をあてます。

  1. "親"を決める。

  2. "親"は1枚だけ選ぶ(秘密にしておく)。

  3. YesかNoで答えられる質問を1つずつ"親"に投げ、"親"はYesかNoで答える。

  4. "親"が選んだ1枚を予測する(せーの、で指差し)。

  5. 正解を伝える。

  6. どうしてその作品だと思ったのか共有する。

はじめのうちは、YesかNoだけで答えられる質問をするのに手間取っているグループが目立ち、「どんな色が使われていますか?」と問いかける場面も。「緑が使われていますか?」「人物がいますか?」「抽象的ですか?」「記号が使われていますか?」など、カードをよくみて質問が重ねられていき、慣れてくると次第に質問の系統を整えて"親"の選んだ1枚に迫っていくような共同戦線も生まれ、質問をするだけとは言いつつ、かなり白熱しました。

"親"が選んだ1枚を予測し「せーの」で作品を指差す段階では、年齢も性別も関係なく、初対面同士が嘘のような大盛り上がりを見せました。満を持して"親"が正解を伝える時も「ええーっ」「それなの!?」「あたったー!」「やった!」とどのグループからも歓声が聞こえました。

その後、どうしてその作品だと予想したのかを共有します。たしかに質問から導き出されると納得できるものや、なんで?と説明をさらに聞きたくなる場合もあり、改めて「人それぞれ捉え方が違う」ということも体験できたようでした。

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4ターンほどしてから、一度全体での共有の時間を持ちました。コツはありましたか、という会田さんからの投げかけで、いくつか意見が出ました。


● 大きな質問を最初の人がして、そこから質問を細かくしていくと可能性を絞り込んでいける(チーム作戦のようで楽しかった)。
● 抽象的な印象(ふんわり、ゴツゴツなど)は意外に共有しやすかった。
● 色でも人によって捉え方が違うことがわかった。
● 「生き物」の範囲がどこまでか、人は入るのかどうか、といったことも人によって違った。
● 作品の特徴をどこに感じるかも人によって違い、同じ質問・回答でも予想される作品が変わっていた。


この共有を踏まえて、さらに全員が"親"をするまでターンを繰り返し、ワークショップを終了しました。

いい質問・わるい質問

ゲーム中、1人では気づかなかった様々な要素に気づいたという声がよく聞かれました。

「牛がいますか?」という質問で、「え?牛なんている??」と全員で身を乗り出してカードを確認していたグループもいました。複数の人と一緒に見ることで、新しい視点に気づくことができていました。また、この会話からも垣間見えますが、回答者と質問者がお互いに影響しあっていることもわかります。"親"は質問されるたびに、(視線が正解のカードに向いてしまわないよう注意しながら)どうだったかな、と改めて作品のカードをみて、認識を確認したり改めたりしていました。つまり、質問によって観察や思考がより促される現象が起きていたと言えます。
「質問には質があって、いい質問というのは思考を広げていくものなんです」と会田さん。問いかけ一つでより深い鑑賞を促すこともできます。知識の有無や正誤だけで答えられる質問よりも、自分の経験や知識を生かし自分の言葉で答えられる質問の方が、思考がより回転しているのがよくわかります。

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作品をみて思考して楽しむ

美術の世界では、先人の技法を乗り越えていくことの積み重ねで様々な表現が生まれてきました。現代美術もその延長線上にあります。技法を乗り越えていくことは、単なる技術だけでなく着眼点をも乗り越えていくことです。

マルセル・デュシャン《泉》はよく知られている作品ですが、この作品では作者がしたことは極わずかです。既製品の便器を90度回転させて置き、サインをしただけ(偽名)。もちろん当時は「こんなものは芸術ではない」と酷評されますが、そもそも一体なにが美術を美術と決めているのか、その点を問いかける作品でした。「もの」ではなく「概念」が作品として提示されたことに、新しい着眼点があり、その前の時代を乗り越えることになりました。
こうしたコンテクスト(文脈)、美術の流れを知っていることは大切なことでもあります。しかし「作品をみることを楽しむ」ことの中に、「思考して楽しむ・吟味する」ことが含まれている以上、思考を止めない、回転させ続けることが必要です。そのために、思考を広げる質問が重要になってきます。それは一体どんな質問なのか、思考を止めずに考え続けてみてください、というメッセージで全体が締めくくられました。

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質問コーナー

最後に、選択研修(4月度)で寄せられた質問から、会田さんが簡潔にお返事されました。
(ボランティアの方は、回答内容詳細をボランティアMYページから見ることができます)

Q アーティストの意図や制作背景を語らないでも良いのか?

A 鑑賞者によって伝えるべき情報を選べばOK。人によっては知らないと気になって作品自体に集中できない人もいる。大事なのは、思考を回転させ続けること。情報を与えたことによってその人の思考が止まってしまわないようにする。

Q 対話ではなく解説型のガイドを希望される方がいたらどうしたらいいか?

A 秘技「質問返し」。相手がどうして?と思ったことに対して、どうしてそこを疑問に感じたのかを掘り下げてみる。情報が欲しいだけのようにみえても、出発点にはその人の興味を引いた箇所がある。着眼点を増やしていくように質問を重ねていけると良いのでは。

Q アートだと思えば、なんでもアートなのか?

A 広義には、なんでもアートになり得ると思う。しかし、やはりアートとして成立しているものはそのコンテクスト(美術の流れ)を踏まえている。それは必要な部分だと思っている。

Q ボランティア活動に向けて学ぶべきことは?

A 作家について自分でリサーチするのもいいと思う。すでに9割以上の作家は発表されていてWebで公開している。知識がないと楽しめないわけではないが、気になる人はデュシャン以降の美術についての解説本などを読むのもおすすめ。

ワークショップの効果か「次の研修で!」と顔をあわせて挨拶する方も多く、意気揚々と会場を後にするボランティアの皆さんの後ろ姿が印象的でした。
次回の研修はどんなものになるのでしょうか!


(文 松村淳子)