2019年4月17日 その他

ボランティア研修

全体研修(第1回)

「あいちトリエンナーレ2019」 ボランティア全体研修(第1回) レポート


2018年11月から3ヶ月に及ぶ募集期間で、800名を超えるボランティア登録があり、この3月から開幕直前まで、さまざまな研修が行われていきます。今回は、その第1回目となる"はじめての研修"(全体研修(第1回):3月15日(金)14時実施回)の模様をお伝えします。
1日2回ずつ行った全体研修では、平均して100名ほどの参加がありました。男女比はやや女性が目立つものの、大きな偏りはなく、年齢層は幅広く、高校生から、定年退職後第2のキャリアを踏み出した方まで、様々な方々が集まりました。熱気高まる中、第1回目の研修がスタートしました。


監督挨拶

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研修は「あいちトリエンナーレ2019」芸術監督津田大介さんの挨拶からはじまりました。「あいちトリエンナーレ2019」についての展望と、監督の立場からボランティアのみなさんへ寄せる期待について話されました。

芸術監督 津田大介

あいちトリエンナーレは国際芸術祭です。お祭りであって、多くの人が文化芸術に触れるというものですが、僕自身、大地の芸術祭や瀬戸内国際芸術祭などに参加した時に感じるのは、芸術祭の大きな効果として「まちづくり」、地域振興があるということです。地元の人たちがボランティアとして、まちづくりに積極的に関わることができる、とても貴重な機会だと思っています。
12回目のトリエンナーレスクールでも話したんですが、普通、国際芸術祭と言うと、作品やアーティストが主役だと思われがちですが、僕自身は本気でボランティアのみなさんが主役だと思っています。芸術祭が終わるとほとんどの作品はなくなってしまい、アーティストもいなくなります。でも、例えばトリエンナーレなら、3年に1回やることが決まっていて、ボランティアとして参加するみなさんがまちづくりに関わっていく、このことはずっと続いていきます。それが、究極、この地域のレガシーになっていくと思っています。だからこそ、芸術祭の主役はボランティアのみなさんだと思っています。
これまでトリエンナーレでボランティアをした人に話を聞くと、毎回関われて本当によかった、楽しかったと言ってくれることが多いです。あいちトリエンナーレを通じて、まちづくりに積極的に関わってほしいと考えています。僕自身も積極的にみなさんとお話ししたいと思っていますので、見かけたらぜひ気軽に声かけてください。これから長丁場でいろいろなお願いをさせていただくと思いますが、どうぞよろしくお願いします。


キュレーター挨拶

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監督の登壇に引き続き、第1回目ということでキュレーター陣もそろって登場し、それぞれの役割と現在の状況、ボランティア活動へ期待することなどを簡単にお話しいただきました。

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チーフ・キュレーター(学芸統括)飯田志保子


今日いらしているほとんどの皆さんと同じ、愛知県民です。愛知の夏って非常に暑いですよね。「なんで愛知はこんなに暑いんだ!」と、夏スタートのあいちトリエンナーレでは毎回、同じ声を聞きます。この暑さのせいで、印象がマイナススタートなんですよね。作品や展覧会など、「あいちトリエンナーレ2019」の内容に関しては、我々キュレーター陣が、もちろん責任をもってがんばります。ボランティアのみなさんは来場者にとって最初に出会う入口とも言えます。ぜひ、ポジティブな印象を持っていただけるよう、みなさんのお力添えをいただきたいと思っています。暑い夏がスタートになる愛知のトリエンナーレを、いかにポジティブに感じてもらえるか、「あいちトリエンナーレ2019」の顔として、ボランティアのみなさんのご活躍に期待しています。


キュレーター(国際現代美術展、豊田市担当)能勢陽子

「あいちトリエンナーレ2019」に関わりながら、豊田市美術館で学芸員としての仕事もしています。豊田市美術館は、オープンから24年が経ちますが、豊田のまちなかへ美術館の活動が浸透しているとは言いにくい現状です。今回、初めてトリエンナーレの会場となることで、美術館とまちをつなぎ、外から来た人に向けて豊田市の特色を伝える機会となると、期待を寄せています。ボランティアのみなさんには、ぜひお一人お一人の"人間力"で、まちと来場者とをつないでいってほしいと思っています。


キュレーター(国際現代美術、四間道・円頓寺担当)鷲田めるろ


金沢21世紀美術館に開館前から18年くらい勤めていましたが、今回「あいちトリエンナーレ2019」のために職を辞しまして、今回の仕事にのぞんでいます。四間道・円頓寺という地区も、初めてトリエンナーレの会場になります。2018年12月に、今回の拠点となるような「なごのステーション」という場所をつくり、そこで情報発信をしています。「あいちトリエンナーレ2019」の目的の一つとして、芸術文化の日常への浸透ということが掲げられていますが、まちなかで展覧会を実施することも目的達成のために大事だと思っていますし、地元のボランティアのみなさんの力も大切になると思っています。


キュレーター(映像プログラム)杉原永純


「映像プログラム」は、愛知芸術文化センターをメイン会場に展開し、映画の上映や各種映像作品の紹介などをする予定です。現在、テーマに沿って作品を選定しているところです。現在は、山口情報芸術センター[YCAM]でも映画のスタッフをしていますが、この3月には辞めて、半年間集中して愛知でトリエンナーレに関わるつもりです。出身が福井県で、大学は東京、そして今は山口県ということで、愛知のことは全然知らないので、ぜひみなさんに教えていただきたいと思っています。

山口では公共施設などで映画の上映をしているんですが、そういうときに思うことは、その映画の面白さなどを伝える一番の窓口というか、一番伝えてくれるのは、受付をしてくれる市民の皆さんだったりするんです。「あいちトリエンナーレ2019」でも、普通の映画館でやっているものより、面白いか面白くないかわかんない、という人が多いと思うので、みなさんで、面白いから見てみない?と声をかけてくれるといいなと思っています。また、ボランティアさん向けの試写会をして意見を聞いたり、交流する機会をつくれたらとも思っています。


キュレーター(パフォーミングアーツ)相馬千秋


過去3回のあいちトリエンナーレでの舞台芸術は、ダンスが中心でした。これは、愛知県芸術劇場でダンスのキュレーションが盛んだったということがあると思いますが、私はどちらかというと演劇が専門なので、これまで愛知であまり紹介されてこなかったような演劇を、どんどん紹介していきたいと思っています。

わたしは東京が拠点ですが、東京でボランティアを募集すると、女性や学生がかなり多いんです。でもこの会場での様子をみると、男性もいるし、年齢層の幅も広くて、ワクワクしています。というのも、実は今回のパフォーミングアーツでやろうとしていることに、ボランティアさんをはじめとした一般の方々にも、エキストラというか、作品の中身に関わってもらうようなことをいくつか計画しています。なので、みなさんのことはボランティアというよりも、出演者候補にも見えてきていて、こんなにも多様な方々が集まっていただいているので、ボランティア活動はもちろんだけど、作品にも積極的に参加してもらえたらと思っています。ご案内をどんどんさせていただくつもりですので、よろしくお願いいたします。


キュレーター(ラーニング)会田大也


教育普及担当として一番ボランティアの皆さんと関わることになると思います。

ボランティア活動の研修プログラムを考えるときに、いろいろ話を聞いて一番驚いたのが、あいちトリエンナーレのボランティア組織が1,000人規模だということ。こんなにトリエンナーレに関わりたいと思う人がいるなら、アートの見方そのものの面白さをもっと掘り起こして、アートとこんなふうに関わると面白いよ、とお客さんと一緒に楽しめる人が増えるといいと思って「対話型鑑賞」を取り入れた研修を考えました。これから研修の中で皆さんにも体験していただくことになりますが、一緒に楽しく研修できればと思っています。


キュレーター(現代美術)ペドロ・レイエス

※後日コメントを寄せてくださいました。ご本人の思いをそのままお伝えするため、原文のままコメントを掲載します。


Welcome to the 2019 Aichi Triennale!

We are extremely grateful and honored to have you as volunteers to this great event, which will be one of the most ambitious and outstanding editions of the Triennale up to date.

We are happy to announce that for the first time, the Triennale will have fifty percent participation of women, so it will be one of the first shows of this scale to have gender equity which is definitely an exhibition of the 21 century.

Also, we are addressing pressing issues that show how art is a mirror of the current state of the world, where we have a truly international group of artists, many of them who will address issues that are rarely spoken in Japan, which are feminism and migration.

With this, we hope to show that art is one of the most sophisticated means of communication available to mankind. Art deals with issues that we avoid talking about in other fields of society, this shows how much we care for warm understanding and peace, from a true feminist encounter that aims to foster a better understanding of each other and the world.

Thank you so much for your effort in joining this adventure, it will be not only meaningful, but fun!


Pedro Reyes


当日は都合があわず登壇できませんでしたが、「音楽プログラム」キュレーターには大山卓也さんが参加されています。


あいちトリエンナーレ2019

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監督、キュレーターの挨拶のあとは、ラーニングキュレーターの会田さんより、「あいちトリエンナーレ2019」の概要や特徴についてご紹介いただきました。

今回のトリエンナーレは4回目となり、ジャーナリストの津田大介さんを芸術監督に迎え、「情の時代」という、様々な切り口で考えることができ、今の時代をどう生きていくかを問うようなテーマで、新しい試みも加えた内容となる予定です(詳しくはコンセプトをご覧ください)。

『現代美術』『舞台芸術』『ラーニング(普及教育)』という3つの柱は過去3回を継承し、『舞台芸術』の中に新たに「音楽プログラム」が加わり、これまでキッズトリエンナーレ、エデュケーションと言われてきた普及教育に関わる部分の名称が『ラーニング』と変わりました。

「音楽プログラム」ではポップ・ミュージックを中心に、日常に音楽が溶け込んでいるような情景をつくりだすことが予定されています。『ラーニング』については、担当キュレーターの会田さんの「クリエイティブなのは、アーティストだけではない。鑑賞者側、受け手側にクリエイティビティがなければ、作品は面白くならない」という考えをもとに、来場者がともに考え、学び、成長していけるようなプログラムを展開していきます。

会場は、過去3回で会場になってきた、愛知芸術文化センターと名古屋市美術館。そして豊田市のまちなか、豊田市美術館、名古屋駅周辺の四間道・円頓寺エリアが初めてトリエンナーレの会場となります。新しい場所でどのようにトリエンナーレが受け入れられ、盛り上がっていくでしょうか。


ボランティア研修の仕組み


「あいちトリエンナーレ2019」でのボランティアの活動は大きく分けて2種類です。


【会場運営ボランティア】

 作品看視や受付、誘導を主に行う


【ガイドツアーボランティア】

 来場者を対象に、対話型鑑賞によるツアー形式の作品案内を行う


過去3回のトリエンナーレでもこの2種類のボランティア活動が行われました。今回大きく変わったのはその研修方法。今回は「アートを見る楽しさそのものを来場者と楽しめる、アートファンを1,000人増やす」ことを主眼に研修内容を改良し、3種類の研修を行うことになりました。


1)全体研修

すべてのボランティアが参加する必須の研修。トリエンナーレ開幕まで全4回行う。

「あいちトリエンナーレ2019」とボランティア活動の概要、中身を知る。「対話型鑑賞」に触れる。


2)選択研修

希望者が受講する任意の研修。4〜6月まで、各月6回ずつ行う。

「対話型鑑賞」の実践をメインに、レクチャーやワークショップを通して「対話型鑑賞」について深く学ぶ。


3)専門研修

【ガイドツアーボランティア】が受ける専門の研修。7月に4回行う。

「対話型鑑賞」のトレーニングを重ね、実践を通してツアープランの組み立て方などを学ぶ。


今回の大きな特徴は、ガイドツアーボランティアが受ける専門的な研修を、すべてのボランティアも体験できる点にあります。希望者の中から、知識や適性などを軸に選抜された100名前後のボランティアが、ガイドツアーボランティアとして活動することになりますが、それ以外の900名近いボランティアも「対話型鑑賞」を通して、作品の楽しみ方を知ることができます。それは、作品や来場者のそばで長い時間を過ごす【会場運営ボランティア】にとって、来場者の鑑賞をサポートする力になります。ツアーに参加しなくても、作品について少しだけ話したいと思った来場者がいた時に、「対話型鑑賞」を体験した経験があれば、来場者一人一人の鑑賞体験を盛り上げることができるでしょう。そうしたサポートができるボランティアが1人でも増えることを、今回のトリエンナーレのボランティア研修では期待しています。


対話型鑑賞の体験

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ここまでで「対話型鑑賞」と何回か出てきましたが、今回のトリエンナーレで行うガイドツアーはこの「対話型鑑賞」を取り入れて実施します。実際それがどんなものなのか、「あいちトリエンナーレ2019」ボランティア育成特別講師として平野智紀さんをお招きし、40分間の対話型鑑賞の体験を行いました。


平野さんは、対話型鑑賞についての実践や研究に携わり、「六本木アートナイト」ではガイドボランティアの育成に5年間ほど会田さんとともに関わってきました。翻訳に関わった書籍には『学力をのばす美術鑑賞』(2015年、淡交社)があり、ACOP(京都造形芸術大学アート・コミュニケーション研究センター)との共同研究も行なっています。

今回は、対話型鑑賞のさわりの部分を実際に体験してもらうことで、対話型鑑賞で作品をみるということが、どんなことかを実感してもらいました。


まずは、対象となる作品画像をスクリーンに映し出し、1分間程度一人で作品をよく見ます。そのときに湧き上がってくる気持ちや直感、疑問などを大事にします。それから、前後左右、席の近い人と3〜4名のグループをつくり、自分の感想や疑問などを話しあい、作品のどのような部分からそう思ったのかも考えてみます。自分だけでなく、相手の話も聞いて考えを深めていく、「みる・考える・話す・きく」というサイクルを意識します。

はじめに鑑賞したのは《徳川家康三方ヶ原戦役画像(顰像)》(徳川美術館蔵)。タイトルなどは紹介されず、作品だけをしっかりと観察したあと、グループで話し合いました。初めましての自己紹介からスタートし、一人一人順番に、どう感じたかを話し始めましたが、すぐに会話が盛り上がり、こう思った、こう感じた、それならこういうことだと思う、と活発なディスカッションが繰り広げられました。

10分程度話したのち、いくつかのグループで出た意見を共有しました。高校生を含む男女3名で話し合ったグループでは、「おしゃれ」というキーワードで話が展開し、ポーズを取っている人物の体の動きや空間上の配置がうまくバランスが取られている点や、衣装のデザインなどに注目が集まっていました。他には、椅子注目したり、表情と視線について考えたりしたグループもありました。また、以前から作品のことを知っていた人もいましたが、情報の有無に関わらず、描かれている人物の表情や衣装、小物や空間などから、時代背景や人物の性格などについて考えることができていました。

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先ほどの鑑賞をふまえ、次に鑑賞したのは《出会い、〜こんにちは、クールベさん》(ギュスターヴ・クールベ、1854年、ファーブル美術館蔵)です。

今回はタイトルも先に紹介され、「誰のセリフかということも考えてみてください」と一言あって、まずは1人での観察からはじまり、先ほどと同じグループで話し合いました。笑い声も多く聞こえ、話し合いに熱が入ります。平野さんから声がかかるも、なかなか対話は止まらず、みなさんの熱中具合が伝わってきます。


少し落ち着いてから、どんなことが話題に出たかを共有しました。ほとんどのグループで話されたのは「誰がクールベさんか?」。多くが白い服を着た旅人か農夫のような格好の男性だと考え、この人物に向かい合うように立つ2人の人物との関係性について、様々な見方が出されました。わざわざ出会う場面を描いている(描かせたのは中央の裕福そうな人物だと思う)ので、クールベに出会えたことがすごく嬉しかったと思うから関係は良好だという考えや、向かい合うように立っていること、2人の人物が帽子や手袋を外して下手に出ているようにみえることから、関係性は悪いか気まずいか、上下関係があるような緊張感あるもの、という意見もありました。あるグループではもともと仲間だったが、2人が裏切り、時がたって謝罪するためにクールベを探し当てたところ、という深いストーリーが生まれたりしました。また、描かれている犬の視線などから画面の外側にイメージをふくらませたグループもあり、各人のバックグラウンドが反映され、1人だけではきっと気づかないような部分にも注目が及び、様々な見方が生まれていました。


対話型鑑賞を取り入れることについて


2つの作品で対話型鑑賞を体験したところで、平野さんから対話型鑑賞のポイントと、対話型鑑賞を今回取り入れる目的について話されました。

対話型鑑賞とは、解説員による一方的な作品解説ではなく、ファシリテーターやモデレーターと呼ばれる「進行役」が参加者同士の対話を盛り上げて作品をみていくことを言います(今回は参加者同士の対話という醍醐味部分を体験)。つまり、進行役は話すことが仕事ではなく、参加者の会話を促すアシスト役です。「(自分が)いかに話したかではなく、(相手に)いかに話させたか」が進行役としてうまくできたかどうかだと会田さんは言います。一人で鑑賞するときには見えていないことが意外とあります。他の人と一緒に見ていくことで、複数の視点だからこそ発見することがあったり、考えが深まったりします。正解だけを伝えようとするのとは違い、鑑賞者が自由に感じたことも一つの正解だと考えるとき、一方的な解説ではない対話型鑑賞は、たくさんあるいろいろな正解=考え方に触れることができる機会になります。

「対話型鑑賞は一つの手法という面もありますが、アートに対する考え方や態度だと考えてもらうといいと思います」と平野さんは伝えます。

鑑賞という行為は答えや作家の意図を当てるゲームではなく、鑑賞者が主体的に作品に対して意味をつくっていくことです。その姿勢が対話型鑑賞と言えます。特に、現代アートは価値が定まっていないものが多く、鑑賞者が意味をつくっていくことになります。それはとてもクリエイティブなことです。ガイドツアーボランティア、会場運営ボランティア、一般来場者といった区別なく、そうしたクリエイティビティを発揮するために、今回対話型鑑賞を取り入れています。鑑賞することのクリエイティビティを発揮できる1,000人規模のボランティアと、そこに触発される来場者によって、今回のトリエンナーレの作品にどんな意味がついていくのか、ワクワクします。

「ボランティアの皆さんはあいちトリエンナーレの一番のファンだと思いますので、自分自身があいちトリエンナーレをもっと楽しんでください。そして、楽しんでいる姿を見せるということも大事だと思います。」という、平野さんからの言葉で研修が終了しました。


全体研修(第2回)は4月実施で、選択研修もスタートします。

これからのボランティア研修も期待大です!


(文 松村淳子)