2019年7月2日 

ボランティア研修

全体研修(第3回)

「あいちトリエンナーレ2019」ボランティア全体研修(第3回) レポート

3回目となった今回の研修では、パフォーミングアーツ、音楽、映像の3つのプログラムについて具体的に紹介がされ、いよいよトリエンナーレ開幕が近づいてくるという期待感が高まりました。

全体研修(第3回)6月14日(金)の模様をお伝えします。


改めて:対話型鑑賞について


まず、会田キュレーター(ラーニング)の進行で、前半30分は「あいちトリエンナーレ2019」の簡単なおさらいをし、その後「対話型鑑賞」を改めて体験する時間を設けました。
「対話型鑑賞」に関するレクチャーや実践は、研修の始まった3月から全体研修や選択研修で毎回取り入れてきました。実践の前に、研修をとおして多かった質問や疑問を紹介しました。

Q. 「対話型鑑賞」と聞いて(来場者は)戸惑いを感じるのではないか?

はじめに「対話型鑑賞」について懇切丁寧に説明しないといけない、来場者が理解しきってからスタートしないといけない、ということではなく、「この作品をみてどう感じましたか?」など普通に会話をするようにスタートすることもできる、と会田さん。
日本では、美術の授業で作品を「みる」ことも行われますが、作品のタイトルや作家名、背景などを覚えることとセットになっていることが多く、そのことが「アートをみる=知識がないとわからない」という思い込みをつくっていると言います。知識があることは邪魔にはなりませんが、今みえていることから考えていくということと、ズレてしまう可能性はあります。
今、自分がなにをみているのか、みえているのか、他の人がどうみているのか、ということを丁寧にみていくことを体験できるように、「対話型鑑賞」の考え方を取り入れていきたいと考えています。

Q. 結論や情報が欲しい人がいると思うが、解説的なことは伝えてはいけないのか?

「対話型鑑賞」は、(鑑賞者に)特別な知識がなくても、だれもが作品をみることを楽しめる方法の1つです。やり方は様々で、解説を絶対に伝えないというやり方もあるかもしれません。ただ、会田さんは「作品をみるだけではわからない情報というのはどうしてもある。その情報を伝えることで、鑑賞者の思考が刺激されて、より深い鑑賞につながるなら、情報は適切なタイミングで伝えればいいと思う」と言います。
ポイントは「唯一の正解と思わせないこと」。情報を与えたことで、正解だと思ってその人の思考が止まってしまわないように、「解釈が広がるヒント」として提示することを心がけていきたいです。

Q. (知識や情報を)知っていたら教えないともったいないと思う。

作品の制作背景や、作家のエピソード、特に解説文などにない情報を知っていたら、それを知らない人に伝えたくなるのは当然のことです。でも「教える快楽におぼれないでください」と会田さん。作品の情報を知ることに情熱を傾けるのではなく、様々な解釈をみつけ、改めて考え直すきっかけとして、「対話型鑑賞」と向き合ってもらえると、そこに参加した鑑賞者のアートとの向き合い方自体も変わっていくかもしれません。

Q. 終わり方がわからない。オチをどうやってつけたらいいのか?

「必ずしもきれいにまとまって終わる必要はありません」と会田さん。「みんなで色々と考えて、話してみることができて面白かったね」という気持ちを持てることが一番の目標で、疑問が残ったり、もっと話したかったり、といったモヤモヤや心残りがあっても、それが、その人の思考をその後も動かし続ける糧になると言います。

解説型のプログラムに参加した場合、満足度が高かったとしても、その時の内容がほとんど記憶されていないという調査結果もあります(ニューヨーク近代美術館)。「対話型鑑賞」に参加した人の記憶に、そこで出会った作品が鮮明に残ってくれるようになるといいですね。


実践:対話型鑑賞


近くの人と5〜6人のグループをつくり、対話型鑑賞の実践を行いました。今回はファシリテーター(進行役)は決めず、思いついたことを話し合っていきます。
最初の作品は、ワリード・ベシュティ《FedEx》シリーズです。
透明の立方体とダンボールの箱という組み合わせに、一瞬言葉を失ったような雰囲気に。同じシリーズの他の作品を数枚みせはじめると、次第に会話が始まり、「ヒビが入っている」「あれはFedExの箱だ」「国際郵便で、いろんな国をつないでる」「国から国への移動がテーマ?」「箱に入ってたらあけたくなるけど、開けると壊れちゃう?」「年代をあらわしてる?新しいものは壊れてないけど、古いものは壊れてる」「大事なもの?」など、どんどんと言葉が出てきました。

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次の作品はウーゴ・ロンディノーネ《孤独のボキャブラリー》シリーズです。
こちらはすぐに「ピエロ!」と声があがり、その表情や姿勢、服装などからイメージされる様々なことが話されました。「楽しそうじゃない」「牢屋に入れられちゃった」「ふてくされてる」「こわい」「本物の人?すごくリアル」とイメージが膨らんだところで、会田さんから補足情報「これは人間じゃなくて、人形なんです」の言葉で、会場は一段と盛り上がりました。「え!人間だと思った!」「人形ということは、どういうことになるのかな」とさらに解釈が深まっている様子でした。

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今回とりあげた2作品はどちらも「あいちトリエンナーレ2019」の参加作家によるもので、事前情報を持っている人はほとんどいませんでした。知識がほぼゼロの状態でも、鑑賞が滞るどころか、スムーズで活発に展開したことは参加したボランティアさんたちが一番感じていたのではないでしょうか。側からみていても、その盛り上がりには圧倒されるばかりで、どのグループでも「楽しい!」という気持ちが溢れているようでした。
「事実と解釈はちがうもの。事実が何だったとしても、自分が思った直感や解釈も間違っているわけではなく、それらも一つの事実であり、解釈です」と会田さん。知識や情報にとらわれ過ぎずに、目の前の作品と自分との出会いを丁寧に体験してほしいと締めくくりました。


パフォーミングアーツについて

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「対話型鑑賞」の実践の後は、パフォーミングアーツ、音楽、映像の3つのプログラムについて、現在決まっている範囲で具体的な内容の紹介がされました。
パフォーミングアーツ」は先日チラシができたばかり。そのチラシを手元にみながら、コーディネーターの清水さんの説明を聞きました。
前回まではダンスが多かったパフォーミングアーツですが、2019では「演劇」を中心に紹介していきます。9つあるメインプログラム全てが「演劇」です。
そのほかには5つの「エクステンション企画」を行います。エクステンションとは「拡張」。国際現代美術展に参加するアーティストたちが、展示空間から活動の場を「拡張」し、レクチャー形式のパフォーマンスを実施したり、アッセンブリー(作品をみんなで鑑賞して議論する場)を設定する予定です。
「演劇は鑑賞者と一緒につくるものなんです」と清水さん。
鑑賞者と演者が一体になってその場の空気を作り出していくのが演劇のおもしろさでもあります。鑑賞者は作品をつくることにも知らずに関わっています。清水さんは、ボランティアの人たちにはより積極的に「作品をつくっていくこと」に参加してほしいと言います。演者のケアをしたり、あるいはオーディションに参加して演者になったり(サエボーグ『House of L』、市原佐都子(Q)『バッコスの信女―ホルスタインの雌』で6/14時点で出演者を募集中)、周りの人に内容について話したり、参加の仕方はいろいろあります。
「みんなで一緒に作品をつくっていきましょう!」と清水さんからの紹介が終わりました。

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音楽プログラムについて

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『サカナクション』のチケット販売が開始された時のSNSなどの反響が記憶に新しい人もいるかもしれません。芸術祭としてはあまり例のない、ポピュラーミュージックやロックミュージックなど、幅広い作品を紹介するのが「音楽プログラム」です。
紹介いただいたのは大山卓也キュレーター(音楽プログラム)。音楽や映画、漫画など様々なメディアについて紹介するニュースサイト「ナタリー」を立ち上げ、長年編集者として活動してきました。
「あらゆる音楽がアートであり、たくさんの人の心を動かすものだということをトリエンナーレの場で改めて再認識してほしい」と言う大山さん。
『サカナクション』や『純烈』は3月に参加が発表されましたが、この6月に発表されたのが『U-zhaan(ユザーン)』です。チッラー(Chilla)というインドの一部地域で行われる修行を四間道・円頓寺エリアで行います。40日間小屋にこもって、ひたすらにタブラを叩き続けるもので、8月1日からはじまって9月9日まで休まず行われる予定です。
また、9月14日(土)には『あいちトリエンナーレ2019 MUSIC&ARTSフェスティバル』を実施予定で、愛知芸術文化センターに3つのステージを用意し、様々なアーティストが登場するそうです。
ほかには、四間道・円頓寺で路上ライブを計画していたり、日常の中に、非日常的な音楽が入り込んでくる、それに思いがけず出会うというシチュエーションをつくりだす想定です。


映像プログラムについて

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映像プログラム」を紹介いただいた杉原永純キュレーター(映像プログラム)は、「最近映画館に行ったことがある人は?」という質問からスタートしました。シネコン系からミニシアター系まで、順に名古屋にある映画館の名前をいくつかあげていきました。ミニシアター系になっても、思いのほか手をあげた人数は激減することはなく、「なんか相性いいんですかね」と杉原さんも驚きの様子。
「最後まで話を聞くことができるのが映画館という場所であり、映像作品だと思う」と杉原さん。
スマホを使う人が増え、自分の好きな部分、必要とする部分だけをピックアップして、他の部分は簡単にスキップできてしまうような現代において、自分の意図しない状況や意見、話に最後までつきあう、という機会も思った以上に少ないように思います。
反対に、映画館で映画をみているとき、たとえ自分の気に入らない展開になっても、意味がわからなくても途中で退席する人は滅多にいません。
杉原さんは「わざわざ出かけて、2時間くらい拘束されるっていうのも、映像くらいじゃないかなと思うんです。でもその向き合うという時間が大事だと思っている」と言います。向き合う時間の中でみえてくることが絶対あって、それが「情の時代」をどう考えるかということにつながっていくと考えているそうです。
現在発表されている作品は2つですが、9月下旬に愛知芸術文化センター12階のアートスペースAで10作品を上映予定です。「国際現代美術展」のチケットがあれば、だれでも入場可能です。
「映像作品にもぜひ興味を持ってもらいたい」と杉原さんからボランティアさんへのメッセージで終了しました。

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毎回、1回あたり100~200人ほどの参加があるボランティア研修。だんたんとボランティア同士やスタッフと顔見知りになり、終了後も会話や相談事で滞留するグループも増えてきました。
「対話型鑑賞」実践後、「ベシュティの作品は実際に8月からのトリエンナーレでみることができるんですよ」と会田さんが伝えたときの、「きゃー!」という黄色い歓声。たった数分の時間でしたが、真剣にこれはなんなのか、を考え続けていく中で思った以上の愛着が生まれていたことが伝わってきて、これから実際に作品を目の前にした時のボランティアさんの反応や、来場者の様子などが鮮やかにイメージされて、とっても楽しみになりました!

次は、いよいよ7月の直前研修、全体研修(第4回)です!


(文 松村淳子)