Shoum
- 《Shoum》 2009
英国ニューウェイヴ・バンドのTears for Fearsによる1984年のヒット曲「Shout」を聞きながら、二人の男性が手分けして文字を書き連ねています。
セルビア人である彼らは英語がわかりません。聞こえてくる歌詞の音の響きに、知っている言葉で近いものがないか探り、何にも似ていない言葉に独自の解釈を加えてなんとか文字にしようと試みます。たとえばオリジナルの歌詞では'Shout, shout, let it all out'となっている箇所を、二人は相談のうえ
'Shoum Shoum Lajdi o Lau'と書き起こしますが、これはセルビア語でも意味を持たない文字の羅列です。
作家が生まれた旧ユーゴスラビアは、かつて6つの共和国からなる連邦国家でした。1991年に崩壊が始まり、様々な民族、宗教、言語で構成されていたそれらの国がバラバラになってしまったことを受け、彼女は言葉の機能を改めて見直したり、その不確かさをテーマとして取り扱う作品を作ります。決して少なくない人々が、母国語で過ごすことが叶わなくなってしまっている現代の状況を踏まえると、この作品のもつ意味もまた、幾重もの解釈ができるでしょう。
カタリーナ・ズィディエーラー
- 1974年ベオグラード(ユーゴスラビア[現セルビア])生まれ
- ロッテルダム(オランダ)拠点
スピーチと言語の関係に着目し、映像、パフォーマンスなど多様な表現を行う。「母国語以外の言語を話すとき、私の言葉は『私が話す言葉』と『私を話す言葉』の狭間にある」と語る彼女の故郷、旧ユーゴスラビアは、7つの国境、6つの共和国、5つの民族、4つの言語、3つの宗教、2つの文字、1つの国家と形容される国だった。《Shoum》は、セルビア人男性2人が80年代にヒットした英国バンドの楽曲を繰り返し聴き、歌詞を書き起こしていく。彼女の作品では、言語は曖昧で不確かなものとして表現される。そこには現代社会が抱える言語とアイデンティティの暗黙の関係、異なる文化や言語圏に生まれる緊張に加え、その狭間に置かれた昨今の移民の苦境も浮かび上がる。
主な作品発表・受賞歴
2019 | 個展「Katarina Zdjelar: AAA (Mein Herz)」Hartware MedienKunstVerein [HMKV]、ドルトムント(ドイツ) |
2018 | 個展「Katarina Zdjelar: Vladimir」ザルツブルク・クンストフェライン、ザルツブルク(オーストリア) |
2016 | コーチ=ムジリス・ビエンナーレ2016「forming in the pupil of an eye」コーチ(インド) |
2013 | 第5回モスクワ・ビエンナーレ「Space of Exception」モスクワ(ロシア) |
2009 | 第53回ヴェネツィア・ビエンナーレ、セルビア館、ヴェネツィア(イタリア) |
地図
名古屋市美術館
所在地
愛知県名古屋市中区栄2丁目17−25
芸術と科学の杜・白川公園内
開館時間
入館は閉館の30分前まで
休館日
バリアフリー
アクセス
・地下鉄鶴舞線「大須観音」駅下車 徒歩7分
・地下鉄名城線「矢場町」駅下車 徒歩10分