【レポート】これはアート?エンタテインメント?誰もがファンになるアニマル・レリジョン

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アニマル・レリジョンが開催された豊橋公園は、豊橋駅から歩いて20分ほどのところにある。公園に入り、取材準備を始めるべくカメラを取り出していると、奥から2人の男が走ってきた。半裸、しかも四つん這い。「え?豊橋公園ってこんな風土……?」なわけはなく、アニマル・レリジョンの「Chicken Legz」はすでに始まっていたのである。非現実な風景に思わずシャッターを切りまくる。その後は120分、ただただ彼らのパフォーマンスに引きずり込まれるだけだった。

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アニマル・レリジョンは、スペイン・バルセロナを拠点にするパフォーマンス・ユニットである。プロフィールでは「現代的サーカスにダンスと音楽の融合を図りながら、動物の本能や宗教に触発された作品を創作している」となっており、他に並ぶのはアクロバット、タップダンス、ジャグリング、マジック、ピアノ、クラウン、パーカッション、天文学、動物の動き……などなど、見れば見るほど想像力を掻き立てられる。実はアニマル・レリジョンは事前の紹介がとても難しい演目のひとつだった。上記のキーワードを見てもらえばわかるように、そもそもカテゴライズがとても難しい。パフォーマンスの特異性から開催地探しにも苦慮したらしい。しかしよく考えれば、説明しやすさや、場所の探しやすさから表現方法が決まるわけもなく、そもそもジャンルや会場は、公演内容の最大公約数で作られているにすぎない。表現的にも思想的にもボーダレスな彼らのパフォーマンスは、そんな当たり前のことに改めて気付かせてくれるものだった。

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メンバーが駆けずり回る公園内を進むと、長い入場列が見えてきた。その日は10/8、公演初日ということもあり、スタート1時間前にはすでに長い列ができていた。アニマル・レリジョンのメンバーは開演を待つお客さんを全く退屈させない。入場口に作られたブースで、時には列にまで繰り出し歌とリズムで楽しませる。入り口からメインの開催場所への導線も仕掛けづくしだ。堀の下から駆け上がらんばかりの男、急に現れるお化け屋敷的な仕掛けの小屋、これはもうアート作品というよりもテーマパーク。公園内の各所でも、メンバーそれぞれがパフォーマンスを繰り広げている。この時点ですでに彼らのフィジカルに圧倒される。

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そして木製の柵で囲われた会場で、メインの演目がいよいよスタートした。序章的パフォーマンスが終わると、フォークリストが広場へと進入していく。そこにぶら下がっていくメンバーたち。サーカス?シルク・ドゥ・ソレイユ?乱暴とさえ思える滑走を見せるフォークリフトの上で、次々とパフォーマンスが繰り広げられていく。その後もメンバーが出入りしつつさまざまなアクロバットを披露。彼らは開催場所からのインスピレーションも重視しているため、数日前から豊橋公園でキャンプをしていたらしい。なかには「ハラキリ」など、ユーモアあふれる表現で落とし込まれたものもあった。それにしても驚かされるのは、多種多様すぎる表現の混ざり具合だ。サーカス、演劇、ラップ、ピアノ、エレクトロミュージック……共通項がなく思える要素が、彼らのならではの美意識でひとつの演目に集約されている。

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全編通して言葉はほぼ使われていないが、それでもお客さんに飽きる様子はない。動きは原始的な衝動を想起させるものだが、全体構成はとても緻密なのだ。時に踊り、時に演じ、時に飛び、時に謳い、畳み掛けるようにアニマル・レリジョンの世界に引き込んでいく。常に驚きを与えようとする姿勢は、もはやサービス精神とさえ呼べるほどだった。彼らであれば遊園地やロックフェスなど、どんなシチュエーションでも会場を沸かすことができるに違いない。もはやパフォーマンスどうこうではない、彼ら自身のエネルギーがとにかく強く、そのキャラクターにどんどん惹き込まれていくのだ。アートとエンタテインメントを隔てているものって何だ?そんな疑問すらもパフォーマンスの終盤には不毛に感じてきた。アートでありエンタテインメント、原始的であり緻密、そして前例に囚われない表現の混じり合い。要するに彼らは、「いったい何者か」と狭い見識のなかで必死に理解しようとしている自分より、はるかに自由なのだ。

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終演後には、会場に詰めかけた性別、年齢も異なる観衆の全員が大きな拍手を送っていた。そしてアニマル・レリジョンのメンバーも、長い時間をかけてそれに応えていた。たった120分、拍手を送る人々のほとんどが初見だったはずだが、まるで演者と鑑賞者の間に、長年の信頼関係が存在しているかのような光景だった。数日前まで彼らの説明に苦慮していた自分も、ずっと見続けてきたかのような親近感をパフォーマンスの後には感じていた。違う場所、土地、シチュエーションでもう一度彼らを見てみたい。会場に詰めかけた観衆もみな同じことを思ったはずだ。

まだまだ世界にはとんでもない人たちがいる。改めてそう感じたのと同時に、あいちトリエンナーレのような芸術祭が世界各地に存在する意味も、再確認した一日だった。

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TEXT&PHOTO:阿部慎一郎

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