【体験レポート】アジアン・サウンズ・リサーチ同時多発!神出鬼没!ゆるくて驚異的な4時間

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10月6日~10日の5日間、岡崎で行われたアジアン・サウンズ・リサーチ(プロジェクト・ディレクター:Sachiko M)というプロジェクトの企画「OPEN GATE 2016」。その最終日に行ってきました。

この企画は、事前に「音楽と美術の間を越境する新しい形の展覧会、動き続ける展覧会」と紹介されており、筆者の頭の中では「?」が点灯していました。訪れる前に、マレーシア・ペナン島で2015年に行われた第1回「OPEN GATE」の映像をYOUTUBEでチェックしたものの、ライブなの? 展覧会なの? 実際にはどんなことをするの? 現場に行ってどんなふうに楽しむの? と、なんだかいまいちよく分からないまま、ただ面白そうな予感だけを持ちながら会場へと向かいました。

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会場である百貨店・シビコの屋上に立ってみると、とにかく空が広く、風が強い。洗濯物のように糸に吊るされた何十枚もの銀色のなにか(後でエマージェンシーシートだと知りました)がシャラシャラと風に煽られる音しかしない。筆者が訪れたのは公開最終日だったため、前回のトリエンナーレで塗られたという建物の白い色と青い空、流れていく灰色の雲という景色の中に、前日までの展示がそのまま残っている状態でした。

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展示と書きましたが、個人的には前日までのパフォーマンスの痕跡と言ってもいいのでは、と最初は思いました。例えば、タクシーのハリボテが取り付けられた自転車、弦の上に機械が置かれビリビリと鳴り続けるバンジョー、吊り下げられた植木鉢、空調の排気口に付けられたマスキングテープ(の先には洗濯バサミ)、点灯する懐中電灯の光がセンサーに当たることで音の出るスピーカー装置、ガムランで使うと思われる各種サイズの金属製の楽器、フェンスに吊られた銅鑼、風で音の鳴る竹製の楽器、ノイズのような音を流し続けるラジオなど(他多数)が、無造作に、広い屋上に置いてある。ある意味、パッと見は子供のイタズラや遊びの跡と間違える人がいてもおかしくない空間でした。

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屋上の公開がスタートした15時の時点ではまだ明るく、それらをつぶさに見て回ることができました。屋上に点在するそれらを探すように徘徊する観客の様子は、のんびりと宝探しのアトラクションを楽しんでいるよう。うろうろとしている最中にアーティストが作業する様子も見られ、会場の片隅には前日までの記録写真が並び、ぼんやりとパフォーマンスへの期待が膨らんでいきます。

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そんな中、そもそもこの公演が「動き続ける展覧会」だったと、ふと思いだした時、それらは前日までの痕跡でもあるけれど、現在進行形の作品であり、インスタレーションであり、音楽なのだと、ハッとしました。パフォーマンスが始まるまでの時間は、「OPEN GATE」の名前の通り、壁やステージなど仕切りのない開かれた屋上に、様々な音の鳴る楽器(のようなもの)が、ただあるだけ。でも、それらから生まれる微かな音以外にも、風や鳥の音、静かな街の音、観客たちの立てる音など、多彩な音が聞こえていたし、また音だけでなく、建物の雰囲気や目に見える景色、さらには台風が去った後ならではの気だるさと爽快感が入り混じった天候までもが渾然一体となっていて、観客はその渦中にいるのだと気付きました。

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photo: 渡部勇介

「展覧会」というと、作品と自分が向き合うという印象を持ってしまいがちだけど、この「OPEN GATE」は、会場にあるもの、会場で起こること、すべてのものがフラットな立場で独立していて、音楽的にもビジュアル的にも響き合う場になっている、とでもいうのかなと。言葉にすると分かりにくいけれど、その鑑賞体験は、けして難しくない。その証拠に、訪れていた子供たちは嬉々として走り回っていました。

とまあ、長くなりましたが、そんなことを考えながら、しばらくぼんやりと過ごした後、陽が傾き始めた頃に、ゆるやかにパフォーマンスは始まりました。始まったといっても、合図があったわけでも、誰かが歌い始めたわけでもなく、気付けばいつのまにか何人ものアーティストがパフォーマンスをしていたり、楽器を手にしながら歩いていたりしていて、その音に観客が吸い寄せられたという方が正しいかな。

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photo: 渡部勇介

手に持ったベルをゆっくりと鳴らしながら歩き回るプロジェクト・ディレクターのSachiko Mさん、シャボン玉を飛ばしている大友良英さん。竹製の楽器を前に座り込み、鈴の付いた細い棒をシャンシャンと振り続けるアダムさん。10人以上のアーティストがてんでばらばら!ステージと客席の区別のない空間なので、屋上の至るところでアーティストは音を鳴らし、パフォーマンスを繰り広げ、移動し、別のパフォーマンスへと変化し、さらに移動し、を続けていく。そこに規則性は感じられない。予定調和もない。だから観客は周りで起こっていることに自然と注意深くなる。

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photo: Win Win

金属製のショッピングカートをガラガラと押すチ・トゥさんに目を奪われていると、視界の端をティッシュボックス型のラジコンカーが横切り、それを見ていた親子の「あれ、どうなってるの?よく分からない」という会話が聞こえてくる。鈴木昭男さんが2mはありそうな細長い木の板を段ボールにこすり付けて弦楽器のように音を鳴らし、ハリボテタクシーの移動が始まる。そこで、仕事を思い出したように唸りを上げるビルの空調の轟音が響き渡る。陽が沈み始め太陽が赤く染まり始めた時、なぜか石臼を黙々と引き続ける男がいる後ろで、ギターを弾く男もいる。照明もなく、サウンドシステムもないので、暗くなってくると視覚以外の感覚がより強く働くのが分かる。時には、天邪鬼な気持ちを働かせて、大勢の観客が移動するのとは逆の方向に歩いてみると、暗がりで淡々とドーム状のものを叩いているアーティストがいて驚かされたり……。

普段なら気にも留めない日常の音と、アーティストがパフォーマンスとともに鳴らす多彩な音。どこまで周りの状況に身を任せているのか分からないアーティストと、周りの状況に身を任せることも任せないことも選べる観客。神聖で侵しがたい絶対領域を感じさせるパフォーマンスもあれば、猥雑でツッコミを入れたくもなるパフォーマンスもある。とにかく自由で、真剣で、ゆるくて、ユーモアがあって、驚異的な4時間でした。

asian14photo: 渡部勇介

「動き続ける展覧会」というのは、マグロが泳ぎ続けないと死んでしまうように、生から死へと動き続けることが宿命の人間(アーティストも観客も)の、普段は使う機会が少ないであろう感覚をグラグラと揺さぶる体験の場だなと思いました。きっとそれが「OPEN GATE」体験なんでしょう。この展覧会で得たものは、この場にいた全員がきっと違うと思うし、個人的には自分を更新する特別なものになりました。

この日はちょうど岡崎市長選挙・岡崎市議会議員の投票日でした。その選挙カーの音までも展覧会の一部として優しい気持ちで受け入れることができたことに、自分でも驚きました。

TEXT:澤井敏夫

 

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