【山田うんインタビュー】奥三河の芸能神事「花祭」にオマージュを。

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新作「いきのね」を発表するダンスカンパニー、Co.山田うん
公演は、あいちトリエンナーレ2016の最後2日間!
ここでは、あいちトリエンナーレ2016の開幕前、山田うんが語った言葉をご紹介します。「花祭」からインスパイアされた気持ちやイメージを語って頂きました。

――改めてですが、山田うんさんの経歴からお聞きしてもよろしいでしょうか?
振付家としてのスタートは私がちょうど30歳のとき、2000年ぐらいのことです。そこからフランスに留学したりですとか、ヨーロッパのダンスフェスティバルに招かれたり、国内・海外で、ソロ活動もしながら、グループの振り付け作品を発表してきました。10年前ぐらいからは日本で、学校教育の中にダンスを入れようという動きがあり、日本全国の幼稚園から大学までいろんな学校や施設を300か所ぐらい行って、ダンスを体験してもらうような活動をしてきました。それから日本だけでなくイギリスや東南アジアなど、国境を越えてダンスを普及することもしてきました。そういった活動をしていく中で、舞台を見せることでダンスを普及していくことができないだろうかと考えるようになり、4年前ぐらいから自分のカンパニーの活動として群舞を発表するようになりました。何か大きなインパクトを劇場で与えることで、普及活動と芸術活動を同時にできないかと考えたのです。今回のあいちトリエンナーレでも、その一環として群舞の作品を披露する予定です。

――あいちトリエンナーレでは、奥三河の芸能神事「花祭」をオマージュした作品を発表してくださるとのこと。その「花祭」のリサーチにいらっしゃっていますが、その感想などを聞かせてください。
「花祭」をテーマに作品を作るというのは、芸術祭のテーマにも絡んでくるとのことで、あいちトリエンナーレの事務局の方からアイデアを頂きました。私は「花祭」を知らなかったのでまず足を運ぼうと思い、去年の11月に東栄町の月地区というところに行って「花祭」を見ました。24時間のお祭りでとても寒くて煙たくて、すごく汚れるし何だかわからなかったのが1回目(笑)。その後、東京でも「花祭」を継続している団体がいて、12月にそちらを観にいきました。東京でやるということで、東栄町とは全然違うんですけど、とてもパワフルで、お祭りとしてインパクトがありました。そこに来ていた方といろいろお話して、次はお正月に東栄町の古戸地区に行きました。月地区とは全然タイプの違う踊りだったんですけど、私が見た3つの舞の中で1番インパクトがありました。よく訓練された素晴らしい舞が継承され、まだ残っているということに本当に感動しました。

「花祭」は踊っている鬼と観客と、その中間で応援しながら激を飛ばす人たちの、境界をまたぐようなお祭りなんですね。ですので、観に来た人も出るのはOKなんです。ダンサーも一緒に「花祭」をリサーチしたのですが、男のダンサーの子たちも鬼になって踊ることになりまして。最後には「下手くそー」とか罵声を浴びたりしていましたが、とても良い体験でした(笑)。

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Co. 山田うん『舞踊奇想曲 モナカ』 2015 (c) 羽鳥直志

――「花祭」を実際に観て、ご自身の作品としていくにあたって、構想のようなものはあるのでしょうか?
美術家の味岡伸太郎さんが「花祭」の資料をくださったのですが、その資料がとっても美しいんですね。そのとき味岡さんが「美しいものは残っていくんだよね」と仰ったんですけど、そのことがとても印象に残りました。古戸の踊りや飾りを見たときも、とても美しいものだという印象があったんです。なので、その“美しいものが残っていく”ということがひとつ私の取っ掛かりになりました。そこから、体験しないとわからないような時間の嵐みたいなものや、疲れた体、汗臭い匂いみたいなものを、いかに舞台芸術として美に作りあげるか。美化するのではなく、新しい美の価値をどう引き込むかにフォーカスしたいと思っています。また、完全にオリジナルの音楽でやろうと思っています。

――「花祭」の踊りを、また改めてダンスの作品として表現するということで、どういう風に取り入れるか、考えていることはありますか?
「花祭」で行われているステップは、土間で披露するステップなんですね。同じ大地に足を踏みしめている人たちと神様みたいなものとの境界にあるような体というようなものだと思うのですが、ステージで表現するのはそれだけでは足りない。立体が動くようなとても大きく明確なラインが必要になります。土間から舞台にあがるのであれば、やはり大きな変換をしないといけないわけです。例えば私たちが馬から車に乗り換えるようなもので、車になったら舗装道路も高速道路も必要だよね、という風に考えていきます。抽象的ですね(笑)。でも「花祭」をただ視覚化するだけであれば、「花祭」本体の方が面白いんです。なので、そこに別の物語をひとつ立てられたらなと思っています。

――「花祭」には先ほど仰ったように“鬼”がいます。“鬼”を何らかのモチーフにすることは考えていますか?
何をするかはまだ考えてないですが、「鬼」の存在は考えています。「花祭」は男性しか舞うことができないんですが、私は男女を混ぜた舞にしたいと思っているので、そこらへんもふくめて考えていきたいなと。実際の鬼の面はすごく重くてバランスは取れないのですが、今回の作品ではどういう衣裳にするかも含めて、ベストを探りたいなと思っています。

――観客の方に向けてひとことお願いします。
「花祭」をオマージュに作ったというのはもちろんあるんですけど、それと同時に観客の方にはいつも自由を与えたいって思います。裏づけとしてたくさんの要素をお見せするのですが、必ずしもその方が意味に辿りつかなくてもいいと思っていて。衣裳が綺麗だったとか、あのダンサーが格好よかったというのでもありだと思っています。それは若いダンサーたちが「花祭」に行って、「あそこで食べた五平餅美味しかったね」って感想になっていたように(笑)。新しい瞬間に出会いたいなという人には、ぜひ来てほしいと思います。

TEXT:小坂井友美

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