ついに解禁!大巻伸嗣の作品《Echoes Infinityー永遠と一瞬》への立ち入りが可能に

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8月11日の開幕以来、完成形の美しい状態が公開されてきた、大巻伸嗣による大作インスタレーション《Echoes Infinityー永遠と一瞬》。愛知県美術館10階の大空間─約20m四方の床面に、日本画の顔料を使って花や鳥などさまざまな文様を描いた本作は(詳細については大巻伸嗣インタビュー【その①】を参照)、これまで展示室の入口と出口を直線で結ぶ敷石の上からのみ鑑賞可能だったが、10月11日(火)より、作品内への立ち入りが解禁となった。

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立ち入り前の作品

この日は午前10時の解禁に先駆け、先行入場が可能な整理券を9時から一般来場者に配布。“作品の上を初めて歩く”という特別な体験の切符を、限定25名が手にした。
解禁直前には大巻が、
「ついにこの日がやって来ました。創った本人にもわからないぐらい大きな作品になりましたが、この上を歩くことで絵が変化してどんどん見えなくなって、記憶や時間はイメージ化していきます。そこに、今ある時間も歴史のひとつとして重ねられていきます。踏むことで壊れるのではなく、消えていく……それを皆で送っていくような時間を一緒に体験できればと思います」と、挨拶。

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そして各種メディアの報道陣や関係者らが見守る中、ついに先行入場者25名が作品の中へ。最初は皆、恐る恐る足を踏み入れていたが、次第にしゃがんで手で顔料に触れたり、写真を撮ったり、手や足で絵を擦ってみたり、中には裸足になって歩く人や寝転ぶ子どももいたりと、思い思いの方法で作品を体感していた。

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これまで国内外で数々の《Echoes Infinity》シリーズを手掛けてきた大巻だが、たいていは完成したその日に足を踏み入れており、2ヶ月もの間美しい状態のまま展示されるのは今回が初めてだという。その期間については、「向かうことができなかった記憶と向き合ったり、見えなかった大きな動きを意識することができて良かったです」と。しかも、過去最大のスペースでの試みとあって感慨深げ。創作の苦労をものともせず(!?)「機会があれば、この大きさの作品をまた創りたい」と、次回作にも意欲を見せた。

何作目であっても、やはり足を踏み入れる時は勇気がいるそうで、「その中にもう一度入ることで、(作品に込められた過去の)時間と記憶が蘇ってしまう」と言う。一見しただけでは、ただただ美しく華やかな作品とも捉えられがちだが、これは大巻のルーツと、各国各地を巡った《Echoes Infinity》シリーズの旅の記録や記憶が詰まった、いわば人生の縮図のようなもの。そこには、いつまでも心に留めておきたい楽しい思い出もあれば、忘れてしまいたい辛い経験なども含まれている。

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キメの細かい特注の圧縮フェルトの上に描かれた文様は、時間の経過とともに顔料が徐々に沈み込み、たとえ強く擦っても色や輪郭はぼやけるが、記憶と同様にそれ自体が完全に消えてしまうことはない。
「煌びやかな花畑の“印象”だけが残ることで、過去の時間はより鮮明に浮かび上がってきます。膨大な時間の中に立っている私たち人間は、死ぬために生きていて、また再生します。《Echoes Infinity》はひとつの生命体のイメージでもあり、新陳代謝していくということでもあるんです」

鑑賞者もまた、本作を踏みしめることで各々の記憶と時間を振り返り、新たな形に昇華させることがこの作品の真の完結と言えるのだ。

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手で顔料に触れてみると……

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圧縮フェルトの上に顔料が置いてあるだけなので、すぐに崩れてしまう

全方向からの鑑賞が可能になった展示室の奥へ足を進めると、これまで死角になって見えなかった柱の一面に、完成時のままの作品の一部を見つけることができる。立ち入り前の状態を見ることができなかった人も、ここを見れば床の状態と見比べることができるのでお見逃しなく。会期終了まで、もうあとわずか。人が足を踏み入れるたび、さらに滲んで変化していく作品の最終形を見届けに、足を運んでみては?

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立ち入り前の作品の一部が見える柱の前で、大巻伸嗣さんと港千尋 監督で記念撮影!

TEXT:望月勝美

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