繊細な白線で描かれる、光と影風土に眠る、壮大な歴史と物語

佐々木愛-top

豊橋駅から徒歩数分のところにある、開発ビル。ここには合計9組のアーティストの作品が展示されている。〈ロイヤルアイシング〉という砂糖細工の技法を使って描く画家・佐々木愛もそのうちのひとり。国内外でその土地土地が持っている歴史などから着想を得て、さまざまな物語を壁画に描いてきた。

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制作途中の作品

《はじまりの道》と題された今作は、今年の3月作家本人が愛知県田原町をリサーチに訪れた際、その昔この土地には塩田がありそれを輸送するための道があったことを知ったことが根源にある。横14m × 縦2.6mという大きな壁に描かれているのは、中央に大きな道、その右には信州、左には奈良をイメージした風景画だ。もちろん、架空の風景画ではあるが、当時の人々が道中見ていたであろう景色を想像しながら描いたもので、その土地の動植物の生態系に基づいたモチーフが落とし込まれている。

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制作時、部屋のあちこちにモチーフとなる動物や植物の写真が貼られていた

スケッチ1

スケッチ2
こちらは、全体のスケッチ。植物や動物の具体的な名称がメモ書きされている

彼女が画材に使用しているのは、卵白と砂糖。それらをミキサーで混ぜ合わせて、絞り袋に入れていくその姿は、絵を描く、というより菓子作りの準備のようだ。
3mmほどの絞り袋の口から、気持よくなめらかに描かれていく細い線。衣服の編み目のように幾重にも重なったそれらの緻密な描線が、木々や動物に、そして巨大な風景画となり、さらにその背景に壮大な歴史と人々の物語の記憶が横たわる。

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「時間帯によって日差しが変わることで、陰影が微妙に変化して、絵そのものの表情も変わってくるんです。」と彼女は言う。時間の経過にともなって砂糖の描線は、日光に反射しキラキラと光り始める。そんな光と影で描かれた彼女の作品は画材が食品であるため、ずっと原形を留めることはできない。時間とともに光輝き、やがて朽ちていってしまう…生き物のような尊い作品と言えるだろう。

そして、完成した作品がこちら。

完成作品

TEXT&PHOTO:武部敬俊(LIVERARY)

 

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