【映画ライターが行く!】映画からみる現代アートの映像作品

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「映像アート鑑賞」となるとちょっと敷居が高そうに思えますよね。自分には訳わかんないのではないか、などとかまえてしまいまいそうです。そこで、映画好きが映画を観に行く感覚で、あいちトリエンナーの映像作品を観てみたらどんな感想がひねり出てくるのか、ややこしい理屈は置いといて、とりあえず面白いものを観てみたい! ということで、ただの映画好きの私がそろりそろりと愛知芸術文化センターに潜入、展示されている映像作品をレポートしてみました。

まずは入口を入ってすぐにモニターを発見。なにやら頭の禿げ上がったおじさんの映像が動いておりますよ。さっそく作品の前でじっくり観てみることにしました。
ディレク・ウインチェスターさんの『Geometry of Life:72 Emotions』という作品。

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左右に分割されたモニターに同じ人物の顔のアップと、黒いTシャツを着た上半身が写っているだけ。音はありません。
見ているとボードに英語と日本語で、幸せ、苦しみ、内気、喜び、などといった人間の感情を表す言葉が出てきます。するとそのおじさんがこの言葉に合った仕草を演じます。なるほど、言葉による感情を映像化する実験的な作品なのか、まるでアクターズスクールの演技のオーディションみたいだなと見ていると、少し様子が変です。違和感を感じました。なにかさらに複雑な仕組みがあるようです。
さっそくガイドを読んでみると、なんと写っている俳優はボトックス注射を受けているとのこと。あの美容整形で使われるヤツです! 詳しく説明すると「ボツリヌス菌という毒素から精製された製剤を注射し、筋肉を萎縮させる美容医療。小顔やシワの解消、ふくらはぎの痩身や多汗症の改善などの美容効果がある」という代物。

うわー!やばいよこの人!!

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大変な状態になっている、ということがわかりました。自由がきかなくなった身体で、感情の表現をしていたのです。
言葉と感情との間にわざと隔たりを作って、そこにある強烈な違和感を誇張してみせたというわけですね。なるほど、深い。
ちなみに禿げ上がったおじさんはなんとなく憎めない感じの好印象な方でした。トルコの作家さんですが、俳優さんはイングマール・ベルイマンの古い映画に出てきそうな知的な雰囲気を漂わせていました。

さて、さらに次の映像作品に進みましょう。

ヘッドフォンが備え付けてあるので、かけてみると英語のナレーションが聞こえてきました。残念ながら英語はさっぱりわからないので、画面に集中。
作家はエジプトのイマン・アイッサ。作品は『Proposal for an iraq War Memorial』

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バクダッドの街の美しい街の写真が続いた後、だんだん様子が変わっていきます。写真は美しい街並みから、銃をかまえた兵士、焼け焦げた車、そして爆発……。タイトル通りのイラク戦争のイメージになだれ込みます。
すると、途中、画質が変わったかと思うと、昔の古い映画の映像が流れます。

馬が人を載せて空を飛んでいます。資料によると、この映像はアレクサンダー・ユルダ監督の古典的な名作映画『バクダッドの盗賊』なんだそう。1940年の作品で、色が人工的に着色されている感じです。ついつい子どもの頃に抱いた『アラビアンナイト』のイメージが沸き起こります。当時、アラブという言葉にはエキゾチックでどこエロティックな雰囲気が漂っていました。賑わう市場とイスラムの美しい寺院。
ところが今では、テロ、内戦、難民と、アラブという言葉から思い起こすイメージが全く違ってしまったことを、この作品を見ていると気付かされます。変わってしまったイスラムの世界。

イスラム=戦争、というイメージの図式を改めて意識しました。

映像で印象的だった写真があります。
銃をかまえている兵士のヘルメットにおしっこをかけている幼い子どもの写真です。

戦争を語るにはシリアスな内容だけでは表現できない、ということをこの作者はよくわかっているようです。戦争を皮肉るにはユーモアが必要。ユーモアを失った時から人間性は崩壊していくのです。

さて、その奥には暗幕があって、なにやら鳥の声が聞こえてきます。怪しげな雰囲気で楽しくなってきました。
作品はアローラ&カルサディーラの『The Great Silence』。プエルトリコの作家さんです。

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写真撮影NGのため、入り口のみ。左の暗幕の向こうに作品が…。

暗くて広いスペースに3 つのスクリーンがあり、中央のスクリーンには字幕でメッセージが語られ、左側のスクリーンには天体観測をする電波望遠鏡。右側には南米のジャングルとそこに住んでいる生き物たちが映しだされています。

文字の説明によると、地球外の知的生命体を探る電波望遠鏡がある南米のジャングルに生息しているオウムが、言葉を真似るだけでなく、さまざまな概念をも理解している「知的生命」だと説明されていきます。絶滅の危機にある人間の近くにいる生命こそが、実は人類の求めている「知性との出会い」なのではないかということを説明しているようです。非常に面白い視点ですね。
そのまんまですが、電波望遠鏡での宇宙人との接触を描いたジョディ・フォスター主演の映画『コンタクト』を思い出しました。

地球外生命体との「コミュニケーション」とはどんなものなのでしょうか。絶滅寸前の鳥類とのコミュニケーションとはどう違うのでしょうか。アローラ&カルサディーラのこの作品にはそんなそんな壮大なテーマを想像させてくれるワクワクするような作品でした。

とりあえず心地よいので、ぼーっと長い時間、ここで過ごしてしまいました。

映像のアートと映画とはもちろん全く違うものですが、これまでに見てきた映画と関連付けて考えれば、少しアートもわかりやすくなるのかもしれませんね。
そんなことを考えながら、会場をあとにしたのでした。

TEXT:温泉太郎

  

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