「今まで誰も見たことがないオペラ」モーツァルト「魔笛」開幕

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あいちトリエンナーレ2016プロデュースオペラ「魔笛」 撮影:小熊 栄

他の芸術祭と比べて「あいちトリエンナーレ」を特別なものとしていることのひとつとして、オペラの創作がある。
新しいオペラをいちから作るというのは東京であってもあまり多くはなく、それを地方のひとつの芸術祭で作ってしまうのは、世界的にみてもほとんど例がない。
それを実現しているのはこの「あいちトリエンナーレ」だ。
今年の演目は「魔笛」。モーツァルト最後のオペラであり、“魔笛”というタイトルで言われているが、意味合い的には本編中に登場する“魔法の笛”に由来するもので、メルヘンな内容のオペラだ。

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あいちトリエンナーレ2016プロデュースオペラ「魔笛」(撮影:小熊 栄)

その「魔笛」を芸術祭での上演として非凡なものとしてる要因のひとつは、ダンサー、演出家、振付家として活躍し、世界中から招聘を受ける勅使川原三郎が演出・美術・照明・衣裳を手がけたこと。
実際にゲネプロを観ると、舞台セットも衣裳も、照明の使い方も奇抜。
舞台上にあるのは頭上に浮かぶ10個の大きな丸いリングのみ。それが場面に合わせて高度を変え、角度を変え、配置を変える。
照明は照らされた場所が道になるなど、それすらも舞台セットのひとつのように自在に表現を変える。
分かりやすく面白いのは衣裳だろう。王子タミーノの赤いパーカーと王女パミーナの白いワンピースなど現代的な衣裳があれば、チェスの駒のような神官に、白く丸っこい気ぐるみを全身にまとういで立ちの童子。そして手が異様に大きいオモチャのような風貌の従者など、そのキュートでコミカルな動きには思わず笑ってしまうほど。
勅使川原三郎による哲学的な要素とエンタテインメントな要素が交じり合い、シュールさも持ち合わせた独特の魅力を醸し出している。

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あいちトリエンナーレ2016プロデュースオペラ「魔笛」(撮影:小熊 栄)

芸術監督の港千尋はこのオペラのことを「今まで誰も見たことがないオペラ」と語る。
「古典と言っていいモーツァルトのオペラを、21世紀の現代においてどう表現するか。今回の『魔笛』はもっともポピュラーでありながら最も新しい。21世紀のオペラが果たす役割を体言している」と。

そしてこの「魔笛」がメルヘン・オペラでありながら、観る人によって解釈も変わる深さを持つのはその物語にある。それについても港監督は語る。
「昼と夜、善と悪という二項対立を超える人の力にかけたオペラです。闇と光とするならば、闇=黒は、全ての色を混ぜて出来る色であり、光=白はすべての光を混ぜて出来る色です。そうであるならば、闇と光には全てのスペクタクルが含まれていることになります。総合芸術祭の中心にこのオペラが来ることはごく自然なことであると思います」

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オペラ「魔笛」記者会見の港千尋芸術監督

「あいちトリエンナーレ2016」を語るうえでひとつの重要なファクターであるオペラ「魔笛」。総合芸術と呼ばれるオペラは、関わる人の多いこともありチケット代金が高くなってしまいがちなのだが、今回の「魔笛」は1番良い席で観られるS席ですらたったの15000円という破格の値段。初めてのオペラ体験にもちょうど良い機会になるのではないだろうか。

あいちトリエンナーレ2016プロデュースオペラ
W.A.モーツァルト作曲『魔笛』
9月17日(土)、19日(月・祝)各日15:00開演

TEXT:小坂井友美

 

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