港 千尋 芸術監督 インタビュー【その③】あいちトリエンナーレ2016 について

16062569ぴあ

あいちトリエンナーレの芸術監督を務める港 千尋。イベントの見どころをはじめ、テーマ、地域なども迫るインタビューを3回に分けてご紹介します。今回はその最後となる、3回目のインタビューの内容をお届け。

――今回は日本初上陸の作品も多いですね。
あいちトリエンナーレは初回から新作や未発表作、少なくとも愛知県では紹介されたことのない作品を取り上げることを特徴としています。でもそう簡単に新しい作家や作品が見つかるわけではないですから、これは大変なことなんですね。今回もそこは力を入れていて、どの芸術祭に行っても出会うような作品よりも、近い将来に常連になるかもしれないアーティストたちを中心に構成しました。もちろん世界中の芸術祭に参加しているアーティストもいます。そのなかでも既に評価の定まったものや完成された作品よりは、そうではないものに注目し、有名でなくとも今の時代に重要だと思える表現を丁寧に紹介していくことを心がけています。

――メインビジュアルで使われているジェリー・グレッツィンガーの作品も、今回が初上陸です。
写真だけでも強いんですけど、本物はもっとインパクトがあって、会場で見ると圧倒されるはずです。なんだろうと蓋を開けてみると、未知がひろがっていく感じですね。

――D&DEPARTMENTのプロジェクトのように、これまでアートの範疇には入っていなかったもの、境界線が曖昧なものを入れていく懐の深さも持っていますよね。
ひとつはデザインとアートが、どんどん融合してきていることがあります。彼らはロングライフデザインを謳っていますけれども、制作の手法としては人類学的な調査に近いものがある。各地で人に会い、話を聞き、写真を撮る。従来の「デザイン」を越境していて、今回のテーマからすれば、「アート」とするほうが現実的です。今日のアートは、人間の活動のほぼ全領域を覆うまでに拡大していますね。最先端を謳っている以上、こういう表現を反映するのはあいちトリエンナーレ的だと思います。あいちトリエンナーレはアートの考え方を拡張する、越境する、とてもオープンな方向性を持っています。そのスピリットは継承したいと思いました。

――コラムプロジェクトも、3回目ならではの、ひとつ挑戦的な試みですよね。
作家の作品を用いるだけではなくて、トリエンナーレ自体が1人の作家としてプロデュースする、その枠組みがコラムプロジェクトです。ほかの芸術祭にはあまりない、新しい取り組みだと思います。全体を支えるようにその間をうまく補完しているというか。なぜ愛知かっていうことも、それを見ると少しわかる。展示じゃなくてトークのシリーズもあります。今回、作品が揃っていくうちにちょっと面白いことに気がついたんですね。パフォーミングアーツとオペラと、ビジュアルアート、映像、ジャンルは違うんですけども、似たテーマが出てきました。それが鳥なんですね。まずオペラが『魔笛』なので鳥刺しの話、パパゲーノですね。それからハーバード大学の映像にも出てきますし、インスタレーションの中にも出てくる。いろんなジャンルに鳥の姿があるんですね。日本にはずっと鳴鳥っていう鳥を鳴き合わせたり、鳥を愛でてきた文化があります。養鶏もそうですし、鳥のしぐさをずっと愛でてきた文化もありますよね。手羽先だけじゃないんですよ(笑)。今回、鳥をテーマにしたコラム展示を豊橋でやるのは、そんなバックボーンがあります。

――そうした作品が集まったときに何が起こるのか、どう映るのか、芸術祭の醍醐味ですよね。
芸術祭は巨大な客船のようなもので、細部まで緻密に作られている。でもその中に、コラムプロジェクトのような、構造上の「隙間」を準備すると、新たな創造が生まれるかもしれないし、柔軟性も出る。空き地に偶然性があるというか、やっていくうちに見つかるようなこともあるでしょう。それが遊びですよね。車のハンドルの「遊び」でもあり、英語のプレイでもある。なんといっても芸術祭はお祭りです。遊びの部分があってはじめて楽しめる、あいちトリエンナーレの重要な要素だと考えています。

――さまざまな要素が交じり合うだけに、バランス感覚がとても大事になりますね。
あいちトリエンナーレが何と競合するかと考えると、ほかの芸術祭ではないと思うんです。例えば、今回はリオオリンピックと時期が重なっていました。芸術界のなかでは、芸術祭は大きな存在感を持っていますけど、個人個人のお財布から見れば、それはひとつのオプションです。そういう全体の中で考えていかなければいけないので、実はアートだけの話ではないんですよね。これはあいちトリエンナーレが継続していくうえで、議論が絶えない部分じゃないかなと思いますね。

INTERVIEW:阿部慎一郎 PHOTO:川島英嗣

 

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