トリエンナーレ初開催の豊橋市各会場の多様な作品を眺めてみる

豊橋市公会堂 石田尚志 「絵馬・絵巻/プロジェクション」

国際芸術展「あいちトリエンナーレ2016」が愛知県内各地で始まった。3回目を迎える今回から、名古屋市、岡崎市に続き、豊橋市も会場となった。穂の国とよはし芸術劇場PLAT、水上ビル、開発ビルなどに国内外のアーティストたちの作品が展示される。開幕初日に各会場を巡り、多様な作品を眺めてみた。

●穂の国とよはし芸術劇場PLAT
駅をスタートにアート巡りをするなら、豊橋市は徒歩圏内で数多くの作品を楽しむことができる会場だ。豊橋駅近くに建つ穂の国とよはし芸術劇場PLATの1階ロビーでは、大巻伸嗣さん(岐阜県出身)のダイナミックな作品を見ることができる。動植物の線描が表面を覆った巨大な壺の中を光源が緩やかに上下し、館内に幻想的な影を投げかける。

穂の国とよはし芸術劇場PLAT 大巻伸嗣 「重力と恩寵」
大巻伸嗣「重力と恩寵」

劇場前の芝生の上に広がるジョアン・モデさん(ブラジル出身)の作品「NET Project」も見てほしい。見るだけではなく、糸を手に取り作品に参加してもらいたい。この作品は鑑賞者が参加して、さまざまな素材と色の紐を結びつけていくことで、形を変えていく。岡崎、豊橋でも同様に展開されていて、会期終了1週間前から、3つの作品が愛知芸術文化センターに展示される。

穂の国とよはし芸術劇場PLAT ジョアン・モデ 「NET Project」
ジョアン・モデ「NET Project」

●水上ビル
あいちトリエンナーレの特徴の一つは、美術館などのホワイトキューブを飛び出した街なかでの展開だ。初開催となる豊橋市はこの街なか展開において、実に魅力的で多彩なアート空間を実現した。
豊橋ビル、大豊ビル、大手ビルなどからなる「水上ビル」は、1960年代初頭に農業用水路の上に築かれた800メートルにわたって連なるビル群。駅前大通りの南側を水路に沿ってゆるやかにカーブしながら建ち並び、ノスタルジックな風景を現存させている。
ラウラ・リマさん(ブラジル出身)は哲学と視覚芸術を学び、人間と動物を「物」として等価に扱う作品を発表しているアーティスト。今回の展示では、4階建てのビルに100羽の小鳥を放った。通常は小さなゲージの中で飼われる鳥が自由に飛び回る空間に入ると、人間と鳥の関係、視点が大きく揺さぶられる。100羽の生命の存在感を目の当たりにする体験は忘れがたい記憶となるはずだ。

水上ビル ラウル・リマ  「フーガ」
ラウル・リマ「フーガ」

イグナス・クルングレヴィチュスさん(リトアニア出身)はヴィジュアル・オーディオを使ったインスタレーションを展示。暗闇の中で発せられる不自然な音の流れと同期するようにスクリーンに現れるテキストや色面が、鑑賞者の五感や意識に影響を与えていく。

水上ビル イグナス・クルングレヴィチュス 「INTERROGATION」
イグナス・クルングレヴィチュス「INTERROGATION」

●開発ビル
駅前大通りでは、はざまビル大場と開発ビルで展示を楽しむことができる。今回は9組のアーティストの多彩な展示が行われている開発ビルから、作品を紹介したい。
10階に展示する石田尚志さん(東京都出身)は、線をモチーフに絵画や映像を制作するアーティスト。かつて劇場だった空間に光の絵巻や躍動する線を演出した。
9階に展示する佐々木愛さん(大阪府出身)は、その土地固有の神話や物語、詩文などから着想を得て、シンプルで色鮮やかな作品を描き出すアーティスト。今回は伊勢、鳥羽から伊良湖、豊橋までつながる古の交通、交流を題材に制作。材料は何と砂糖。ロイヤルアイシングという砂糖細工技法で描いた緻密な壁画に多くの鑑賞者が足を止めて見入っていた。

開発ビル 石田尚志
石田尚志

開発ビル 佐々木愛
佐々木愛

●豊橋会場での舞台芸術、映像プログラム
会期中は映像プログラムや舞台芸術も予定されている。豊橋公会堂で9月30日に山村浩二さん(愛知県出身)、ジョルジュ・シュヴィッツゲベルさん(スイス出身)などの短編作品が上映される。10月8日~10日は、豊橋公園でスペインを拠点に活動するパフォーマンス・ユニット「アニマル・レリジョン」が、サーカス、ダンス、音楽を組み合わせたアクロバティックや屋外作品を披露する。

トリエンナーレ初日の夜には、豊橋市公会堂で石田尚志さんが映像プロジェクション作品「絵馬・絵巻/プロジェクション」を上映。同公会堂の壁面や大階段が、石田さんのライブペインティングなどを組み込んだ鮮やかな映像で彩られた。

TEXT:竹本真哉

   
   

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