美術館に込められた日本の風景、いくつわかる?随所に発見!
名古屋の中心部にありながら緑溢れる広大な白川公園内にトリエンナーレ会場の一つ、名古屋市美術館はあります。
設計は愛知県出身で建築家・思想家の黒川紀章氏。
木々の高さを超えず地上二階・地下一階建てに設計された美術館には、
日本各地の風景が凝縮されています。
例えば、エントランスゲートの鳥居、吹き抜け空間に鳴き龍、名古屋城や木曽川など、
ここにも、あそこにも、建築を楽しむきっかけがいっぱいです。
オープンアーキテクチャースペシャル企画 青木淳講演会
トリエンナーレ出品作家・青木淳氏は、今回、名古屋市美術館(1988年、黒川紀章設計)の空間を再構築し、黒川氏が設計の手がかりにしていた軸線を読解し、それを視覚的効果によって展開する一時的なリノベーションを行う。その経緯や、今回の試みにつながるこれまでの制作について語る。
名古屋市美術館
Nagoya City Art Museum
9.14.sat 13:00-14:30
- 定 員=各180名(名古屋市美術館2階講堂)
- 講演者=青木淳(建築家)
- (あいちトリエンナーレ出品作家)
- 設 計=黒川紀章建築都市設計事務所
名古屋市建築局
- 施 工=鴻池組、戸田建設、六合建設
- 竣 工=1987年
- 住 所=名古屋市中区栄2-17-25
(芸術と科学の社・白川公園内)
参加アーティストから直接に出品作品やその制作プロセスなどを聞くスポットライト。9月14日は建築家の青木淳さんとアーティストの杉戸洋さんを迎え、五十嵐太郎監督の進行のもと90分間のスライドトークが行われました。会場は、二人が結成したスパイダースの展示がある名古屋市美術館です。ケヤキ並木に囲まれた同館は、1987年、建築家の故・黒川紀章さん設計で建設されました。今回、同業である青木さんが、同館に展示が予定されているアーティストとの恊働でこの場所をどのように読み解きカタチにするのか、開幕前から大変注目されていましたが、今回のスポットライトにも、多くの方が足を運んでくださり大盛況でした。
トークではまず、もともと面識のなかった青木さんと杉戸さんがなぜ今回ユニットを結成することになった経緯について、2002年青森県立美術館の展覧会での出会い、東日本大震災の影響で実現に至らなかった展覧会の存在などを紹介しながら説明されました。
次に、今回の名古屋市美術館の会場構成について「軸線」をキーワードに語られました。ローマのカンピドリオ広場などを事例に、軸線は単に作図上の基線ではなく、人々の意識や街までも変える力を持つものではないかという見解に対して、同館の外観は二線の交差で形作られながら、実は空間的には軸が途切れ矛盾をはらんでいるということが、制作のきっかけになったと言います。制作時二人が交わしたスケッチやエンジンなどの画像も公開され、ユニークなやり取りに思わず会場の人たちの顔もほころびます。スケッチの一部は、展示会場にも展示されており必見です。
今回の展示は、同館の外回りも鑑賞ルートであることが大きな特徴です。通常の入口から展示がスタートするのではなく、ケヤキの小径に誘われながら裏側へ。黒川さん設計の大阪万博東芝IHI館「テトラ・ピース」、江戸の天文図などを模した開口部、両軸の交点にイサムノグチの彫刻と、その他にも見所いっぱいのなか、木曽川流域をイメージしたという池側の通称「コバンザメ」の特設入口より入場します。空中に新たに架けられた両軸を示す赤と青のロープ、そして、その交点の所作は両氏の作品です。お見逃しなく。
館内ルートも両氏の計画です。来館時はまず展示マップを入手することをお勧めします。真っ暗な空間に黒板の浮かび上がるアルフレッド・ジャーさんの作品、その先の通路、上部を見上げながら行くと既存の建物の軸性が大変良く分かります。通常の第一展示室はイ・ブルさんの作品、その展示室と同サイズの特設階段室を上がると、杉戸洋さんとワリッド・ラードさんの空間です。展示室は別ながら、両者の色彩が呼応していることに気付きます。もともとの美術館を美しく魅せる、これが今回の展示のコンセプトだったと言います。他の作品との調和を図りながら、今回の展示空間全体が出来上がったプロセスを伺い、次回展示を鑑賞する際は、初見とは異なる発見の多い体験へ繋げられそうです。
大変和やかな雰囲気でトークは終了しました。今回のお話を通じて、名古屋市美術館を楽しむ視点が増えたのではないでしょうか。すでにある黒川さんの建築作品に敬意を表しつつ、さらに青木さん・杉戸さんが再構築し新しい空間をつくるのは、あいちトリエンナーレならではの新しい試みだと思います。オープンアーキテクチャー特製の資料も館内に設置していますので、是非そちらも手に取ってご覧ください。
黒川紀章が残した建築、今回再編したスパイダースの空間、関わるアーティストたち、様々な想いが集まるこの会場は、見どころいっぱいです。訪れる度に、新鮮さが伝わるはずです。
今回も素敵な時間をありがとうございました。
(文=オープンアーキテクチャー推進チーム 道尾淳子、学生ボランティア 山田愛)