鳥が羽を休めるように、森の斜面にヤドリギの家
木々に囲まれたおおよそ30度もの急斜面、二つの道路が交差する三角の敷地に、
山岳用語「トラヴァース(traverse)」をきっかけに設計された住宅があります。
斜面も樹木もそのままに、スロープがジグザクと架かり、折り返し地点が足休めとなる母屋と離れです。
土地はならすだけじゃない、森と人の新たな共生のかたちです。
設計はトリエンナーレ出品作家の宮本佳明氏。
大胆で斬新なのに心休まる空間を、建築家本人のガイドで体験します。
bird house
bird house
10.13.sun 10:45-12:15
- 定 員=20名
- ガイド=宮本佳明(建築家)
(あいちトリエンナーレ2013出品作家)
- 設 計=宮本佳明建築設計事務所
- 施 工=井戸建設
- 竣 工=2010年
- 住 所=名古屋市(個人宅)
秋晴れの10月13日、オープンアーキテクチャー最終回は「愛知の現代住宅シリーズvol.5」、名古屋市内にある個人邸のbird houseを見学しました。ガイドは、あいちトリエンナーレ出品作家でもある建築家の宮本佳明さんです。
丘陵地の豊かな緑のなかにあるbird houseは、30度もの急斜面をできるだけそのままに、つづら折りのスロープを架け、折り返し地点に最小限の面積で住宅が着地して建っているという外観です。傾斜地では一般的に、コンクリートの大きな擁壁を建てて、ひな壇状に土地を均すというやり方で建物が建ちますが、この姿はそれと一見して異なるので、誰しも驚きを隠せません。
まず、敷地周りやスロープの屋外空間を体験しました。宮本さんの先導で全員が一列にスロープを上っていきます。一つ折れ、二つ折れ、三つ折れ。スロープの切り返しそれぞれに、エントランスと足休めにぴったりなポーチがあり、自然の散策路を行くような感覚です。もともとあった樹々や地表面をそのまま残しているということで、スロープのコンクリート面に映る樹々の影や、むき出しの土に生える小さな植物に目をやるのも楽しい道のりでした。緩やかに上ったのち、全景を振返るとそこには平屋建ての外観が。さらに、敷地に面する坂道を下って行き、三角形の敷地の最も鋭角なポイントから見る建物全景は、分棟であるはずの母屋と離れの関係がまるで一つの小さな建物のようでした。敷地周りをぐるぐるしているだけでも、この建物の構成の面白さを実感することができました。
次に、最も高い位置にあるエントランスからリビング・ダイニングへお邪魔して、この住宅が出来上がるまでの過程についてお話を伺いました。もともとの敷地がどんな様子だったのかスライドで示されると、「えっ…」。厳しい条件を持ち味にかえ建築を生み出す建築家や、実際に工事を行う職人さんたちの高い技術に心打たれるものがありました。宮本さんは今回、土木と建築が隣り合う分野ながら、どこか近くて遠い関係になってしまっている現状に疑問を持ち、「土建空間」という発想で計画されたのだそうです。木造の上屋が立ち上がる前の、コンクリートの基礎だけがある様子も映し出されましたが、それもまた、地形の特徴をさらにありありと浮かび上がらせているかのようで、かっこ良いものでした。
レクチャーの後は一階やルーフデッキを見学しました。ルーフデッキは360度森に囲まれているので、まさに森林浴の気持ちよさです。室内にいても各所の開口部から緑をのぞむことができ、いつも森の中にいるかのような感覚です。建物全体が、母屋とスロープと離れで構成されているので、さまざまな高さ関係の中で敷地全体を広々と体感することができることもまた印象的でした。
見学の最後は、その開放感を存分に味わう時間となりました。スロープの各所に参加者それぞれが居場所を見つけて、宮本さんに質問タイムです。気持ちのよい風で木漏れ日が揺れるなか、笑顔で会話が弾みました。この体験も、すべては自邸を開放いただきましたお施主様のご厚意あってこそ。この場を借りて改めて感謝申し上げます。
本日でトリエンナーレ会期中の全14企画が無事終了致しました。各企画は、建築見学だけでなく、ガイドの方との対話、あるいは、食や音楽や演劇とのコラボレーションなど、さまざまな空間体験を実感していただくものとなりました。それぞれに好評いただけましたことを大変嬉しく思います。定員オーバーの企画がほとんどで、残念ながら参加いただけなかった方も多くいらっしゃいました。全企画の実施内容は、このようなレポートでささやかながらご報告させていただくことになりますが、今後とも皆様方の目の前にある建築や風景に思い思いのストーリーを見出していただき、建築や空間体験への関心を高めていただけると幸いです。ご協力いただきました皆様、誠にありがとうございました。
(オープンアーキテクチャー推進チーム 道尾淳子、学生ボランティア 三宅航平)