関口涼子&フェリペ・リボン『キャラヴァンサライ・メニュー』
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「100の食材、30品のディナー」でのパフォーマンス風景
ヴィラ・メディチ、ローマ 2014 Courtesy of the artist
アーティストページ
7月1日から10月23日までの115日間、関口涼子とフェリペ・リボンが、インスタグラムで『キャラヴァンサライ・メニュー』をテーマに写真を日々、公開していきます。
食は、人間の営み、動物の営みと切り離すことができないものです。三万五千年前の洞窟の闇の中で、小さな火を頼りに動物の絵を描いた人々は、どのような食事をしていたのでしょうか。食べ物の調理方法、保存方法、食事作法は、文化の一部分として時を経てきました。
キャラヴァンが旅の疲れを癒す休息の宿では、世界各地から持ち寄られた食材、香辛料、調味料によって様々な料理が奏でられてきました。絹の道程の休息地をメタファーとして、展示会場となる岡崎の伝統的調味料・八丁味噌と、世界の料理を組み合わせたメニューを関口涼子が考案し、試作の様子を伝えていきます。フェリペ・リボンは、八丁味噌を、水槽の中の生き物を観察するように撮り続けたシリーズ、「vivier(養殖池)」を発表します。
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八丁味噌
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味噌蔵風景 photo: Ryoko Sekiguchi
愛知の味噌というと、赤玉の味噌が有名です。その中でも八丁味噌は、矢作川流域で収穫された矢作大豆と、知多の成岩等でとれた塩を用いて八丁村で作られていたことから、その名がついたと謂われています。桶狭間の合戦では、徳川軍の「戦陣にぎり」と称し、味噌が兵食になったとの記述もみられ、江戸時代には東海道を通じて、江戸幕府へも献上されていました。
徳川家康が生まれた場所である岡崎城から、西側へ八丁(870m)進んだ現・八帖町では、まるや八丁味噌、カクキュー八丁味噌の2社が手を取り、時には競い合いながら、今なお味噌作りを行っています。大きな木桶と、ピラミッド型の石積みを利用した伝統的な製造工程を見学することもできます。麹による発酵作用を利用して作られる「調味料ミソ」の経過を考えながら、あいちトリエンナーレをみるのも面白いかもしれません。
世界の香辛料
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モロッコの市場 photo: Maki Nishida
香辛料と聞いて、どのようなことを思い浮かべるでしょうか?収監中に『東方見聞録』(『世界の記述』(La Description du Monde))を口述した冒険家 マルコ・ポーロによる胡椒の話のように、食物の保存のためにも、滋養・薬用のためにも、香辛料は古来重宝されてきました。
新大陸の発見、世界周航など大航海時代には、より楽しみながら味わう食文化の方向へ舵を切ることが出来るようになりました。背後には植民地をめぐる悲しい争いもありましたが、どこの地域も各々の食文化が連綿と続いています。
関口涼子氏とフェリペ・リボン氏も出展する石原邸では、会期中、色豊かな香辛料・調味料が棚に並べられています。お越しの際には、手にとって世界各地の香りを嗅いでみてください。地に根差した香りから、風景を想像していただけたらと思います。
石原邸—八丁味噌と世界の香辛料・調味料
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《vivier》 photo: Felipe Ribon
八丁味噌生産の地に程近い、岡崎市六供地区にある石原邸では、普段とは異なる視点で撮影した八丁味噌の写真と、世界の香辛料・調味料の展示も行います。戦時中、岡崎の中心市街地は空襲に遭い、焼け野原となってしまいました.それを逃れた石原邸は、今なお、かまどや蔵等からの生活の匂いを漂わせる、江戸時代末期からの建造物です。
展示されている写真は、茜色の夕空、宇宙に浮かぶ小さな隕石群、まとまりを持った星雲、あるいは「ゴールデンレコード」が打ち上げられた空間のようにみえるかもしれません。世界のどの地域に住む方々も、その土地の食材、調味料、香辛料や、季節の旬は、切り離すことができない「懐かしいもの」として、記憶に留まっていることと思います。普段は巡り合わない食を嗜むことは、文化の融和の糸口ともなりえます。『キャラヴァンサライ・メニュー』とともに、展示を観賞してみてください。