【あいちトリエンナーレの今後の展開】
東谷さん曰く、メイン会場としての美術館があり、加えて倉庫があったこと、そして屋外の海辺が同時に使えたことが構成を考える上で好都合だったとのことで、この点では、釜山ビエンナーレの展開とあいちトリエンナーレには共通点があります。
公立美術館の機能と、市などの行政単位で行われる芸術祭の機能とが互いに補完し合う関係が必要だと思います。美術館の展示スペースと、もともと美術作品の展示を想定していないような場所があることで、現代アートの持つ多様な可能性を展開しやすくなります。その一方で、その地域の美術を中心にして、いわば求心的に知識を蓄積している美術館の学芸員と、美術館に属することなく国内外のさまざまな場所とメディアで活動する芸術監督のような外部のキュレーターとの間に交流が生まれ、アイディアの交換が行われます。
先に述べましたように、芸術監督を置くことで芸術祭の形は毎回異なります。一方で形を変えながら存続し続ける、という一見矛盾するような課題を芸術祭は持っています。この課題をこなしていくには、怖がらずに外部の力を受け入れていく寛容さと、その新しい外部の力を生かしきるその能力が、美術館のような既存の施設や都市、そして人に試されていきます。結果、変化することを恐れず、困難にぶち当たりながらも、柔軟に受け止めていく経験を繰り返していくうちに、その都市はしたたかなものとなり、確実にバージョンアップすることができるように思います。ビエンナーレの存亡の危機すらあった、イタリアのヴェネツィアしかり、ドイツのカッセルしかり、そしてフランスのリヨンしかり。ヴェネツィアも、カッセルも、芸術祭の観客動員数は増え続けています。
なお、講師でご登壇いただいた東谷隆司さんは、2012年10月16日にご逝去されました。謹んでここにお悔やみ申し上げます。