8月11日(土)、愛知芸術文化センター12階アートスペースAにて、リアス・アーク美術館学芸員の山内宏泰(やまうち ひろやす)さんをゲストにお迎えし、「3.11と美術」をテーマにお話いただきました。
まず、進行役を務める五十嵐太郎芸術監督が山内さんをご紹介し、「東日本大震災直後に気仙沼で山内さんとお会いした際に交わしたお話が、あいちトリエンナーレ2013のテーマである『揺れる大地―われわれはどこに立っているのか:場所、記憶、そして復活』の、特に『記憶』という言葉に、非常に大きな影響を与えている」と話しました。今回のトリエンナーレスクールは、あいちトリエンナーレ2013のテーマに込められた想いを、山内さんのお話を通じて知る機会となりました。
リアス・アーク美術館は宮城県気仙沼市に位置し、主に現代美術を紹介する公立美術館ですが、一方で歴史・民俗系の常設展示で地域の生活・文化を紹介する文化施設の顔も併せ持っており、震災前から、東北地方沿岸部が津波常襲地帯であることを知ってもらおうと、明治時代に押し寄せた大津波の展示も行っていたそうです。
東日本大震災後、山内さんは、津波の被害を後世に伝えていくために、発災直後から現在に至るまで、強い使命感を持って震災の記録活動に従事されました。その活動の中で収集した多数の写真や映像だけではなく、津波で破壊された生活用品や船の一部なども加え、来年度「東日本大震災の記録と津波の災害史」と題した常設展示も開設する予定です。
山内さんは、今回の震災を受け「美術自体が地域文化の一要素であり、津波により破壊された地域文化を再生させるために、美術は、美術館は何をすべきか」ということを問い直すと同時に、芸術家・アーティストの持つ「人のこころ・記憶を伝える力」が今こそ必要なのではないかと考えました。
そこで、記憶を後世に伝えるために、被災後の風景を多く撮影しましたが、その写真だけでは、そこに込めた山内さん自身の想いはなかなか伝わらないと感じたそうです。それは、写真の中に様々な情報が雑然としていて、人に伝わるために必要な抽象化などの「表現」に欠けているからではないか。人の手により抽象化された絵画に、文章で補足する形こそが、最強の「表現」方法であり、頭の中で生まれるイメージを形にする能力に長けたアーティストの力こそ、今こそ求められているのではないか。アートと社会との関係性も、社会の外にアートがあるわけではなく、その持てる力を、もっと社会に還元していくように用いていくことをもっと今後は意識していくべきではないか、と強い想いを語られました。
会場の「被災した作家の方々は今後どのような作品をつくろうとしているか」「気仙沼を含めた被災地は今どのように動いているのか」といった質問に対し、山内さんから「現地では、様々な意見が飛び交いながらも被災地の未来を見据えた議論が進んでいる」などとお話され、被災地と美術の関係を考える有意義な意見交換がなされました。
このスクールの様子はユーストリームのアーカイブでご覧いただけます。
http://www.ustream.tv/channel/aichitriennale-ch2
次回のトリエンナーレスクールは8月24日(金)19:00から、東谷隆司さんをゲストにお招きして、あいち芸術文化センター12階アートスペースEFにて開催します。皆様のご参加をお待ちしております。