9月29日(日)、愛知芸術文化センター12階アートスペースAにて、パブリック・プログラム スポットライト「名和晃平」を開催しました。納屋橋会場で作品を展開する参加アーティストの名和晃平さんを迎え、今回の出品作とそれにつながるこれまでの制作活動についてお話を伺いました。会場には300人を超える来場者が詰めかけました。
今回、名和さんが挑戦したのは、約25メートル四方に及ぶ空間全体を使った、絶えずかたちを変え続ける泡のインスタレーションで、作品タイトルは《フォーム》。黒い地面から湧き出たかのような大小の水溜りから、白い泡がとめどなく生成され、その泡が塊となって岩山のようにそそり立つランドスケープを形成しています。その様は、地球ではない星に降り立ったかのような印象を見る者に与えます。この新作は「あいちトリエンナーレ2013への参加が決まってから、水滴に光を反射させるというアイデアの実現に向けて実験を繰り返したがうまくいかず、プランを変更することになった。その後、地面に張った水から何か起こるというイメージが浮かんだ」ことから制作されたそうです。
名和さんといえば、動物の剥製の表皮をガラスビーズで覆い尽くしたり、箱の表面に貼られたプリズムシートによって中のオフジェの異なる角度で見た像が現れたり、白く発光する水面に均一な泡が現れては消えるといった〈PixCell〉シリーズで注目されていますが、PixCellとは、画素のピクセル(Pixel)と細胞のセル(Cell)を合わせた造語。「Cellという言葉は、創作のベースとなる概念であり、フォーマットや制作の方法論にも影響している。世界の見え方や、ものの生成もすべてそういう見方ができるのではないかという考えのもと、15年くらい制作している。Pixelのセルともじって、映像の細胞のような作品をつくってきた」と語る名和さん。ガラスビーズ自体が映像を映し出す装置になることに気づいたことから、〈PixCell〉シリーズが始まりました。
印象的だったのは、名和さんの作品が数式によって展開されているというお話です。オブジェクトを多数のCellで分割する(Object÷(Cell×n))とPixCell [BEADS]、オブジェクトに1つのCellを入れる(Object÷(Cell×1))とPixCell [PRISM]、Cellが無限に発生する(Cell×∞)とPixCell [LIQUID])など、大学生の頃にメモに書いた彫刻の方法論となる数式のおかげで、Cellという概念を展開する上でのルールが明確になり、作品がぶれないと話されました。
新作《フォーム》は、Cellが無限に発生するPixCell [LIQUID]に該当する作品。静かで不穏な美しさを表現するために、天井と壁をすべて黒く塗り、床に水を張るため床面に防水加工を施し、黒い砂利を敷くという会場づくりから始めました。「3階まで上って暗い通路を通り抜け、展示空間に一歩足を踏み入れると別世界だったという体験をしてほしかったので、ザクザクとした足元の感じも大切だった。そのために23トンもの砂利を手で運び入れなければならなかったし、気圧や温湿度により泡の制御も難しいが、シンプルでありながら普遍性が感じられる作品ができた」とのことです。
《フォーム》は来場者から高い評価を得ている作品ですが、制作にまつわる苦労に驚かれた方も多かったようです。「作品に集中してもらうためにも、どうつくられたのか苦労を感じさせてはならない」という名和さんの言葉をお聞きし、あいちトリエンナーレをつくる一スタッフとして、私も身が引き締まる思いがしました。
(あいちトリエンナーレ2013エデュケーター 田中由紀子)