大巻伸嗣 インタビュー【その③】豊橋会場 展示作品「重力と恩寵」について

大巻_お披露目時

さて、大巻伸嗣さんへのインタビュー最終回は、豊橋で展示される3つめの出品作《重力と恩寵》についてお届けします。《Echoes-Infinity》と《Liminal Air》のテーマが融合した、「光と闇が交わるところ」を表現した本作は、完全新作! さらなる難題に挑んだ創作の過程を紐解きつつ、8月1日に行われた作品お披露目式の様子もレポートします。

重力と恩寵2
昼間とは全く違う表情をみせる作品。ガラスへの写りこみなど様々な角度から楽しめる。

――「穂の国とよはし芸術劇場PLAT」で発表される作品は、どんなものになるんでしょうか?
仮のタイトルが「太陽と壺」というんですが、まぁ太陽というか光ですよね。壺の中に光がスーッと降りてくるような作品を作りたいと思っていて、壺には花の柄が削られています。でも、いかんせん予算がオーバーし過ぎて倍ぐらいになっちゃってるんで、ちょっとマズイなぁみたいな(笑)。

――壺の素材や彩色はどんな感じに?
素材はステンレスで考えてるんですけど、大きさがね、ちょっとデカすぎたかなぁっていう。でもデカイ方がいいなぁと思ってるんですけど。彩色は真っ白で、パールのようなホワイト……光が反射したり虹色に見えたりする色でやりたいなと思ってます。どちらかというと、僕は壺よりも落ちてくる光が大事だと思っていて、影がその中で作られていって動いていく作品なんです。

――光が落ちてくる、というのは具体的にはどういう感じになるんでしょう。
7万ルーメン(LEDの光の量を示す単位)ぐらいの、本当にナイターの設備ぐらいのものが上からダーンと落ちてくる(笑)。光のキューブというか丸い球体が落ちてくる作品は既に創ってるんですけど、今回は吊ってあるものがずーっとこうゆっくり落ちてきて、舞踏のような感じなんですけど。どんどん空間が真っ白になって、だんだん影がビューンと伸びていって、またビューンと動いていくっていう作品(笑)。

――見ている方は、光に襲われるみたいな感じになるんですか?
光に潰される感じですよね。そういうイメージを今持っていて、サングラスを支給しなきゃいけないんじゃないかな。「ここは劇場です」って怒られるかもしれない。でも、劇場を劇場化したいんです、簡単に言えば。みんなが立っている空間自体に光と影が伸びていって、ビューンって道ができるとか、線になるとか、そういう光の空間を作りたい。

―― 道筋を作るには、それだけの光量が必要ということなんですね。
そうそう。やっぱり空間に光と影をバチっと出すには。昼はそこまで見えないかもしれないですけど、22時まで開館しているので、夜は結構印象的な場所になるかな。この間まで《くろい家》という展示をやってたんですけど、スローモーションで光が落ちてくる作品で、闇の中に光があってスーッと落ちてきてそれがポンッと割れると煙がフワーッと出る。それのまたちょっと新しい感じの作品をやりたいなぁと思ってるんです。

―― それほどの強い光というのも経験することがないので、ぜひ体験してみたいです。
そうですね。3000ルーメンがプロジェクターぐらいなんですね。この部屋のライトで、たぶん2500ルーメンとか。それが6面体で6個付いてる。そうすると、恐ろしいでしょ?

――サングラスいりますね(笑)。
カッコよくフレームを付けてピシッと発光されて、それがキラキラキラキラッと落ちてきたら素敵じゃないですか? たぶん、豊橋が眩しい都市になるなんじゃないかと(笑)。

重力と恩寵3
天井や床にも壷のモチーフが影となって広がる。

――
このインタビューから約2ヶ月後、《重力と恩寵》と名づけられた作品は無事完成し、去る8月1日には作品が設置されている「穂の国とよはし芸術劇場PLAT」1階 交流スクエアにて、お披露目の点灯式が行われた。

まず、拝戸雅彦チーフ・キュレーターが大巻と作品のコンセプトについて紹介。

「大巻さんの作品の特徴は、人の心を繋いでいくような形をいつも取っていることです。今回、私がリクエストしたのは、豊橋が「花の街」ということで、豊橋市民の方の心の共有物になるような作品を設置したいと考え、「花をモチーフにしてください」というお題を与えました。そして、PLATは劇場です。人が集まる場所であり、ステージである場所ですので、「劇場をより劇場的に見せるような仕掛けを考えてください」とお願いしたところ、この作品が出てきました。光が上下することによって壺の表面に描かれたいろんなものが動き出すという作品になっていますので、今の時間だけでなく、ぜひ何度も訪れて変わりゆく表情を見ていただければと思っています。」

続いて大巻が、

「僕たちアーティストにとって、アートのオリンピックみたいな祭典に選ばれるというのは、大変光栄なことだと思っています。さらに今回、豊橋市の市政110周年を記念した日にこの作品をオープンできるのも本当に嬉しく思っています。今日、《重力と恩寵》というタイトルが発表されましたが、私たちが生きる中で、超自然的な恩恵と自分たちがあらゆる物に惹かれていきながら、逃れようとしながら逃れられないその関係、さらに人類または生物が作り上げていく文明だとか時間、そういったものをこのPLATの中で、自由な演劇のように展開できたらいいなと思っております。皆さんそれぞれいろいろな思いを馳せながら、この作品を見ていただければ。自慢にしてもらえる作品になっていったらいいなと思っていますので、よろしくお願いします」

と挨拶。大巻の掛け声でカウントダウンが行われ、眩い光を放ち始めた。

吹き抜け空間で堂々たる佇まいを見せる《重力と恩寵》は、高さ7m、最大直径4mにも及ぶ巨大なもの。切り絵のようにさまざまな模様が浮かぶ、パールホワイトの塗装が施された壺は鉄製で、上・中・下に分かれた30パーツで構成されている。基本的には《Echoes-Infinity》と同じく花を中心とした動植物の模様が表現されているのだが、よく見るとヒトや文明を表す柄などが見えるほか、現代社会における問題を示すマークや出来事が起きた場所の地図など、隠しアイコンも含まれた“世界の縮図”になっているという。

また、大巻が“人工太陽”と表現する発光装置は、直径80cmの12面体にそれぞれLEDライトが仕込まれ、1灯で最大2万ルーメンの光を放つという。ケーブルで吊られたこの人工太陽が壺の中を上下するのだが、光は一定間隔で強くなったり弱くなったりする一方、ケーブルの動きはランダムに設定されているため、同じ動きは2度としないのだとか。

最大光量は1秒だけ光るよう設定されており、現在でも直視するとしばらく残像が残るほどだが、会期中の9月初旬頃(日程未定)には、なんと7万ルーメンにバージョンアップ! これは野球場のナイター設備の3.5倍の光量で、今の世界で一番光るLEDを使用しているというからスゴイことになりそうだ。バージョンアップの日の夜には、館内を真っ暗にしてパフォーマンスを行う予定とのことなので、あいちトリエンナーレ公式サイトでの情報をお見逃しなく!

重力と恩寵1
夜中にはPLATの外まで光輝く作品が確認できる。

INTERVIEW:望月勝美

 

サイドナビ