【体験レポート】大トリ!“いたずら”アートの小杉武久

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いやー、愛知県中が芸術にどっぷり浸かったあいちトリエンナーレも終わってしまいましたね。なんだか寂しいです。そんな大イベントのトリを飾ったともいえるのが、10月22日、23日に行われた小杉武久さんによる「MUSIC EXPENDED #1、2」というパフォーミングアーツでした。一体どんな内容だったのか、22日の様子をレポートしますね。

その前に、小杉武久さんって、みなさんご存じですか? 小生、即興音楽やノイズ音楽などは好きでライブにはよく行く方なんですが正直なところ知らなかったんです。それで、演劇通の友人に尋ねてみたところ、「何!? 知らないの?」と言われて、慌てて調べてみてびっくり。小杉さんは1938年生まれ。1960年に、日本で最初にフリーミュージックとパフォーマンスを融合させた「グループ・音楽」を結成してるんですね。いわば元祖「集団即興演奏集団」を作ったわけです。大御所です。ホント、失礼いたしました。で、60年代には音楽芸術集団フルクサスに参加したり、ナム・ジュン・パイクとパフォーマンスを行ったりしています。70年代にはアメリカに移住し、マース・カニングハム舞踏団の専属音楽家として活躍、ジョン・ケージなどとも仕事をしています。その周辺の人達の作品には接していたのに、もう少し突っ込んで勉強していたら小杉さんに行き着いていたはずで、お恥ずかしい話です。

当日は満員御礼。客層は30、40代がメインでしたが、かなり幅広い年齢層でした。若者も予想以上に多かったです。立ち話を聞いていると「80年代に2回観たなぁ、場所はどこだっけ」とか「YouTubeに出てたの演るかなぁ」とかそういう会話が飛び交っていました。会場に入ると、思っていたより広いスペースにいろいろな機材が準備されていました。椅子の上のアコーディオンが目立ちます。内容はそれぞれのパートがはっきり独立したものでした。配布された解説を交えて紹介していきます。

1.Micro 1 (1961)
マイクスタンドが1本置かれ、スポットライトが当たっています。赤いスーツに赤いサングラス、スキンヘッドの若い男が、大きな1枚の紙をマイクスタンドにくしゃくしゃと丸めて、マイク本体を包み込んで立ち去ります。もちろんガシャガシャと音声が入っています。そして紙は少しずつマイクを内包したまま音を増幅して広がっていきます。最初は「グシャグシャ」と、やがて紙の動きがゆっくりになり、「コツコツコツ・・・コツ、コツ」と音が少なくなっていき、音がなくなるまでをじっと聞くというパフォーマンスでした。とてもシンプルだけれど、偶発性に富んでいて、面白いアイデアだなと思いました。

※ 解説によると、これはAnima1(1961)とともにフルクサスに送られたインストラクション作品で、ヨーロッパ各地でフルクサス・グループによって演奏されたそうです。

2.South.e.v. (1962/2014)
奥の席に小杉さんと男性が座り、「スースー」という声を出しながらコードの付いたシンセサイザーのようなもので、音声を変えていきます。ボコーダーというよりももっと初期的な機材だと思います。エコーがかかったり倍音になったり、風のような「ゴーゴー」というノイズが入ったり、即興で演奏されていきます。よく聞くと「サムス」(?)と言っているようですが、言葉に意味は無いようです。ノイズに包まれていく言葉がただ気持ちいい。と、小杉さんが古いオープンリール・テープのようなものをいじり始め、ノイズ色が増します。テープによるスクラッチとでもいうのでしょぅか。破裂音のようなものも入り佳境になってきたな、というところで、すーっと終わりました。最後に小杉さんがマイクで「あぅぅぅ」と唸っていたのが印象的でした。

※ 解説によると、話していた言葉は「SOUTH」。SOUTHという単語全体をひとつの音素材として演奏されてもいいし、S、A、U、Θという4つの音素に分解して単独に組み合わせたりして演奏してもいいとのこと。今回は1999年8月に初演された改訂版「South e.v.」と同様のもの。
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3.Organiec Musie (1962)
小杉さんが用意されていたアコーディオンを持ちます。もう一人の男が大きな風船を抱かえます。そして冒頭のスキンヘッドの男がガムなのか笛なのかわからなかったのですが、口に入れ、一斉に演奏を始めます。小杉さんはアコーディオンの蛇腹の部分をなかば強引に、伸び縮みさせて「ゴォォォォ」という音を出します。風船は、空気が抜けて行く時の「ヒュゥゥゥ」という音、スキンヘッドの男は「ピーピー」という音。3つの音が自由自在に混ざり合って不思議な音響空間を作り上げます。ここでの小杉さんは少し鍵盤も引くものの終始アコーディオンの蛇腹を広げたり縮めたりしていることに集中しているようで、少しユーモラスでもありました。

※解説には、ヨガの呼吸法と自宅にあったオルガンからヒントを得て作曲された作品。「事前に演奏時間を決定し、その時間内で任意の回数呼吸する。またはさせる」とあります。なんと! そんな難しい作品だったのですね。
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4.Violin improvisation
舞台には椅子1つとバイオリンを持った小杉さん。やがて演奏を始める。「キュキュキュキュ」と弦を擦るような音。そして弦を叩いたり、かと思えば和音になったり。実に即興演奏らしい演奏です。私にはバイオリンの音が一瞬、尺八の音に聞こえたりもしました。それほど自由な演奏でした。最後の方ではバイオリンを抱えて、弦を指で弾いたりもしていました。「バイオリン遊び」そんな言葉を連想するような小杉さんのソロ演奏でした。
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5.Op. Music (2001)
2人の男性による演奏です。光に反応するノイズを爆音で流します。光に電球を遠ざけたり近づけたりすることで自動的に音が出る仕組みだとわかります。今回の演目の中では一番今日的なパフォーマンスだと思いました。ただ、それだけにどこかで観たことがある、既視感のようなものがあるのも否めません。こうしたイベントはそのままクラブ・ミュージックと直結しているような気もしました。

※ 光に感応する電子発振器と音と光の変換を組み合わせることにより、音を光の状態に作用させるオーディオ・ヴィジュアルな演奏と解説にはありました。

6.Film&Film # 4 (1965)
ステージに小さなスクリーンが用意され、フィルム映写機を設置。白い映像の中で小杉さんが手前の白い紙を四角く切っていきます。ひたすらハサミで。後ろの大きなスクリーンには四角く切り取られた部分と作業をしている小杉さんの一部が映ります。小さかった四角はだんだん大きな四角になっていくのですが、黙々とスクリーンを切り取っていく小杉さんをじっと見ているとなんだかほのぼのしてきました。会場も同じ空気が流れていたのか最後の四角を引きちぎるように破いている小杉さんに笑いが起こりました。で、手前のスクリーンを全て切り取ると、それで終わり! これには観客もびっくりしたようで、少しざわついていましたが、なんだか僕には、小杉さんが「してやったり」という顔をしているような気がして可笑しくなってしまいました。

※ 解説にはこのようにあります。16mmフィルム映写機で紙のスクリーンに光を投射し、スクリーンの中心部からハサミで四角く徐々にカットしていくと、カットされた部分を光が通過し、スクリーン後方にもうひとつの光の空間が出現する。
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以上が今回のパフォーミング・アーツの全容です。
1960年からの活動の集大成と言えるでしょう。でも、僕にはとても親しみやすい内容でした。それぞれのパートに、小杉武久という、茶目っ気のあるアーティストの顔が覗いていた気がしました。それは失礼を承知で言えば一種の「いたずら」のようなアートでした。僕はこういうタイプの飄々としたアーティストが好きです。1938年生まれの小杉さんは、体型も小さな、お茶目なおじいちゃんなのでした。

TEXT:温泉太郎 PHOTO: 高嶋清俊

 

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