【稽古場レポート②】青木涼子異なるモノたちを繋ぐ、能アーティスト

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Co.山田うんの稽古場レポートに続いて、能アーティスト、青木涼子さんの稽古場へ。
(青木涼子さんの過去のインタビューはコチラ

当日到着すると、会場となる名古屋市青少年文化センター(アートピア)が入っているナディアパークの一室にて、音楽稽古の真っ最中。音楽稽古とはいっても、演奏に合わせて青木涼子さんが謡い、演技をしているので何となくの雰囲気は感じることができます。
メロディを奏でるというより、心情や風景を表現するかのような演奏を行っているのは、関西を拠点に活動するネクスト・マッシュルーム・プロモーションの皆さん。
青木涼子さんの声などと相まって、妖しい緊迫した空気が伝わります。
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演目となる「秘密の閨(ねや)」は能の「安達原(黒塚)」をベースとしたもので、鬼婆の話になります。
しかしもちろんただその物語を演じるわけではありません。

青木「能の『安達原』には人を食べる鬼婆が出てきますが、今作では鬼婆になる過程を描きます。普通の少女がどうして鬼婆になってしまったのか。そこにフランス人の作曲家、オレリアン・デュモンが興味を持ったんです。台本は、能狂言研究家の小田幸子さんが。3部構成になっていまして、始めに娘の役、そして鬼婆に食べられてしまう山伏、最後に鬼婆に変わった姿を演じます。今回、演技としても新しい挑戦をしています。私は能の訓練を受けてきた人間なんですけど、始めに娘として出てくるときは普通の演技をするんです。山伏ではお能の形式を取り入れ、鬼婆ではまたリアリズムな演技をします」
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白い衣装は、廣川玉枝さんがデザインしたもの。廣川さんは、イッセイ・ミヤケを経て独立、レディー・ガガがそのボディウェアを着用したことでも知られるデザイナーですが、彼女が今回の舞台衣装を手がけています。
今回、青木さんが着ているのはその中の1着ですが、ずっと着てボロボロになった花嫁衣装をイメージしているとのことなので、ここからさらに変更するかも、とも。
また舞台空間に、フランス文化庁新進建築家賞をするなど、様々な分野で活躍する建築家の田根剛さんがが参加するなど、各ジャンルで活躍する方々が、日本の伝統をもとにした新しい作品を作り上げています。
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稽古では、ネクスト・マッシュルーム・プロモーションの演奏だけでしたが、実際にはエレクトロ・サウンドが入るとのこと。
作曲のオレリアン・デュモンはこう語ります。

オレリアン・デュモン「今回、電子音響はとても重要です。事前に録音したものもありますが、リアルタイムで鳴らすものもあります。どちらにしろ、電子音響は能の世界と現代世界、あるいはリアルな世界と不思議な世界を繋ぐ役割を果たしています」

さらに続けて、能という日本の伝統芸能に、現代音楽の音をつけるということで、何をテーマとしたかを教えてくれました。そこにはフランス人からみた、音楽を含めた日本の文化についての感じ方もあるようで…。

オレリアン・デュモン「私が音楽でやりたかったことは、能や、伝統芸能そのもの、あるいはこの物語が持っている、エキゾチシズムを避けて、全く新しいものを作りたかったのです。そのため、青木涼子さんにもただ“話す”行為も、ナレーターとしてであったり、登場人物として、能の伝統的な謡いとしてなど、いろいろなやり方をしてもらっています。

私が感じる日本の文化・芸能の特徴のひとつに、平地されていく時間というものがあります。ひとつのクライマックスがあり、そこに向かっていくのではなく、小さなクライマックスが次から次へとあるような。例えば雅楽などでも、クライマックスがどこにあるというのではなく、極度に引き伸ばされた時間を感じるのです。それを今回、音楽を通して、皆さまの内側で感じてもらおうと思います」

その音楽を指揮するジャン=ミカエル・ラヴォアは「浮遊的な響きに聞こえると思いますが、非常に集中力が必要ですし、肉体的な音楽でもあります」と話すように、演奏する方にもテクニックと同時に、物語に対する解釈も必要とされる音楽になりそうです。
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作曲と同じく、演出はフランス人であるフレデリック・タントゥリエが。異なる文化を持つ者同士が、どのように作品を作り上げていったのでしょうか。

フレデリック・タントゥリエ「私がやろうとしたことは、物語を能として提示するのではなく、ヨーロッパの現代演劇として提示するわけでもなく、2つの全然違う世界だと思われるものを繋ぐ線を探していく作業でした。伝統と現代、ヨーロッパと日本という異なるものを繋ぐ線、共有点を探したかったのです。例えば今回鬼婆が出てきますが、ヨーロッパには『青ひげ』という物語があります。簡単にいえば人を殺してしまう人物の物語なのですが、そういう人物たちが表している意味には共有点があるように思います」

では逆に、日本の伝統芸能の世界を学んできた青木さん側から、異なる文化の人に作曲・演出されることで何か発見はあったのでしょうか?

青木涼子「オレリアンの作曲にしても、お能の謡だけではなく、囁きや普通に話す部分もあり、そういう風に解釈するんだと面白かったですね。それはフレデリックの演出も同じです。お能は、何かひとつ動かしただけでもすごく大きな意味があったり、抽象化することが多いんです。でも今回は結構演技をする場所も多くて。私からここはお能を取り入れてやったらどうかなどを提案しつつ、中間点を探しながら作ってました。それは新たな可能性を感じる作業でもありました」
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伝統と現代表現、日本とヨーロッパなど、異なるもの同士が「秘密の閨(ねや)」という作品として形になりました。
日本の伝統芸能である“能”というものが、どのような表現で表されるのか。ぜひご覧ください。

青木涼子「秘密の閨(ねや)」は、あいちトリエンナーレ2016の最終日、10月23日(日)に上演されます!
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写真左より、ジャン=ミカエル・ラヴォア(指揮)、青木涼子、オレリアン・デュモン(作曲)、フレデリック・タントゥリエ(演出)

TEXT:小坂井友美

 

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