【稽古場レポート①】山田うん本物の神事のような清らかな空間に

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今週末、あいちトリエンナーレ2016がついに終幕する。しかし最後の最後まで見逃せないイベントが盛りたくさんです。
その中でも注目したい舞台モノ、Co.山田うん青木涼子の稽古場へ取材に。開幕直前でようやく全貌が見えてきた2つの舞台について話を聞くことができました。

まずは、Co.山田うん「いきのね」を上演する、名古屋市芸術創造センターへ。現在、舞台セット(?)として、10トンもの土が運びこまれ、本番さながらの稽古真っ最中とのこと。Co.山田うんの主宰であり、本演目を振り付けた山田うんさんが、「いきのね」にかける思い、見どころなどを教えてくれました。
「いきのね」は、奥三河で700年もの間続いている神事であり、国指定重要無形民俗文化財でもある「花祭」のオマージュとして作られた新作です。芸能神事を、コンテンポラリーダンスでいったいどう表現するのでしょうか。
(山田うんさんの過去のインタビューはコチラ

「相撲の土俵で使っているものと同じ荒木田土というものを10トン、舞台上に運び込みます。というのも、花祭が土間で踊られる舞だったので、私たちもまず土間が必要なのではないかということで、土を運び土間を作りました。その土間の上で16名のダンサーが踊ります。花祭は、土があり、火があり、そして天竜川の水をくんで使うなど、自然の恩恵をたくさん取り入れ、生きることの中心となっているお祭りなんですね。なので、舞台上でたいまつで火をたいたりもします」

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「花祭は舞の祭り」と山田うんさんが話すように、舞があるモノをさらにダンスで表現するということですが、そのまま花祭の舞を踊るわけではもちろんありません。「花祭を知ってる人からすると、見た目など表面的な部分は全然違います」と語り、しかし重ねて、「根底に流れる本質的なものは同じなのではないかと思います」と続けます。

「花祭を調べると、700年前の日本人の暮らしが浮かびあがってきます。その時代は、神様や仏様、陰陽道といった思想が暮らしと混ざり合っていたんですね。それが日本の社会が変わっていくなかで、何を選択して、何を捨ててきたかということが全て見えてきました。今を生きる私たちが、何を持っていて、何を持っていないか。その中で、日本人として当たり前に思っている、例えば“大切なことは人前で言わない”というようなことが、実は花祭の一連の儀式にはたくさん隠されてるんです。実際、私たちが見ることができない儀式もありますからね。だけどそういう隠されたものが、すごく大事だということに気づかされたんです。なので今回のラストシーンでは特にそうなんですが、見せないことを見せる演出になっています」

身体表現であるダンスで、思想的なことを表現するという。その振り付けはどういう風に作り上げていったのでしょうか。

「ダンサーたちに実際の花祭を体験してもらったんです。そしてそれぞれに、こういう体験が残っている、花祭だったらこういう振りがいいんじゃないか、ということを提案してもらいました。なので私が上からこういう振りにして、というのではなく、様々なダンサーのアイデアや振り付けが持ち込まれています。

そしてこれまでの作品と全く違うこととして、私も含めて誰もが自分が表現したいことをしてるわけではないということ。自己表現の場として関わってる人がひとりもいないということです。こうすることで神様の通り道ができるんじゃないか、こうすることで何か祈りの形が作れるのではないか、というようにみんなが判断していく。私が振り付けしたというより、不思議な見えない力にプロデュースされているように感じます。歴史なのか、常識、風習、しきたりのようなものすべてが、この作品を作ったと言っても過言ではないと思っています」

そうして作り上げられたダンスは「大きくわけて3部の構成に分かれる」といいます。

「花祭は、天竜川から水を汲んでくるということから始まります。なので、1年をかけて祭りに必要なものを作ったり収穫したり汲んできたりというところから始めなければという気持ちがありました。第1部では、川からお水を頂くということからインスパイアを受けた振りとなっています。山があって川があり、そこに人々が移り住み、花祭が生まれてきたので、そういう自然というものを感じて頂ければと思います。第2部では、自然ではなく人間の作った祭りを。花祭には三ツ舞や四ツ舞という3人や4人での踊りがあるんですけど、それをモチーフに踊りを展開していきます。最後の第3部では、花祭の後に行われる、祭りを沈める儀式をいうものから。これは実際にはお客さんが見れるようにはしていないのですが、必ず行われるものです。その禊の踊りを踊ります。なので、奥三河の1年間を作ったように思います。プログラムには7つの踊りに分かれているのですが、大きく分けるとこの3つの要素になります」

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そして、山田うんさんのお話を聞いてから、実際の舞台上で行う通し稽古を見ることに。
すでに舞台真ん中には土が敷き詰められ、ダンサーたちも揃いの衣装に身を包んでいます。
体を少し動かす音すら響き渡る静寂の中で舞台が始まります。真っ暗闇の中に一筋の光に照らされて登場するのはひとりの赤鬼です。そしてそこから始まる本物の神事のようにも感じる厳かな群舞。
鈴なども使い、音色を変えながら一定のリズムを奏で続ける音楽と、時に同じ振りを、時にランダムに踊るダンサーたち。
シンプルな舞台、衣装、音楽に合わせて、身ひとつで形のない思想のようなものを表現する舞台に、息を飲むことすら忘れるほど集中させられます。

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約80分の踊りに、畏れや清らかなるものを感じ、見終わった後は何か澄み切ったような心持ちに。
エンタテインメントなダンスとはまた違う感情を呼び覚まさせてくれる「いきのね」は、10月22日(土)、23日(日)の上演です。

続いて、青木涼子さんの稽古場の模様もレポートします!

TEXT:小坂井友美

 

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