「アートは人間のためのものだけじゃない」動物のためのアートを創造する、ラウラ・リマ

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豊橋市内の古い商店街の一角にある、水上ビル。かつては人が住んでいたこともあったが、現在は空きビルとなったこの建物一棟すべてを使って、ブラジル人アーティスト、ラウラ・リマは〈鳥のためのアート〉というコンセプトのもと、新作を制作・発表した。

すでに普段見慣れない景色となった空きビルを見て、心を動かされた人はいるはずだ。
開幕前、その製作現場に足を運び、ラウラ・リマから作品に関する思いを聞いた。

ビルの地下に水路が通っていることから名付けられた、水上ビル。その不思議な立地に「湧き上がるエナジーを感じる場所だ。」と彼女は語る。そして、このビル内に、私たち人間が神秘的なイメージを持つ鳥たちの生態系とアート作品をともに展示する、という大掛かりな作品の制作にとりかかったという。

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あいちトリエンナーレ2016展示風景《フーガ》2016 photo:怡土鉄夫

各階には、木製の入り組んだジャングルジムのような、鳥の巣をデフォルメしたような作品が設置されている。彼女曰く、それらは「鳥のための彫刻作品」なのだそうだ。1人ずつしか通れないほどに細く、古びた階段をやや恐る恐る上がっていくと、無数の鳥が。その数およそ100羽。ブンチョウ、ジュウシマツ、コキンチョウ、キンカチョウといった、もともとはペットにされるためだけに生を受けた鳥に限定されているという。

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風景画の模写。写真は展示前の状態。

動物たちのためのアート空間には彫刻作品だけでなく、鳥のサイズ感に合わせた小さめの風景画の模写も点在している。それらを鳥たちが鑑賞することで〈外の世界への憧れ〉のような思いを促進させる装置にもなる、というリマの狙いがある。もともとはカゴの中で一生を終えるはずだった鳥たちは脱走を防ぐため、〈飛ぶ〉という本能すら持たされていないのだそう。そんな鳥たちがここで集団生活をし、〈外の世界への憧れ〉を抱くことによって、もしかしたら本来持っていたはずの飛行能力が芽生えるかもしれない。

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作品タイトルである《フーガ》とは、ポルトガル語で「飛ぶ」という意味を持つ言葉。

「鑑賞者=人ではない。この展示を見るために訪れた人間は、すでに鳥たちが空間に居ることで、鑑賞者ではなく自分が〈侵入者〉のような気分になるだろう。」とリマ。この作品を介して、人と動物の関係性が違って見えてくるはずだ。意外にも人は動物の生態系を知らない。ましてやペットショップの鳥カゴの中でしか普段見ることのなかった鳥たちが広い部屋に放たれ自由を得たらどうなるのだろうか。鳥たちの生活の中に入り込むことによって、あなたは何を感じるか?

TEXT&PHOTO:武部敬俊(LIVERARY)

 

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