プロデュースオペラ『魔笛』稽古場レポート

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演出家の勅使川原 三郎が愛知県芸術劇場合唱団と初稽古

8月5日、プロデュースオペラ『魔笛』の演出家・勅使川原 三郎が合唱稽古に参加した。稽古は愛知と東京で並行して行われており、勅使川原が愛知の稽古場に登場するのは、この日が初めて。コーラスを担当する愛知県芸術劇場合唱団には構想や演出意図も説明された。

愛知県芸術劇場大リハーサル室には、勅使川原を筆頭に、合唱指導の山口浩史ほか舞台を縁の下から支えるスタッフ陣、合唱団の男声・女声の面々がズラリ。その中には、勅使川原のカンパニー「KARAS」のメンバー・佐東利穂子の姿も。彼女は今回、ダンサー、演出助手に加えてナレーションという重要な役割で、勅使川原の世界観を伝える立場だ。

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左から勅使川原三郎、佐東利穂子

自己紹介を終えると、すぐに稽古開始。ピアノ伴奏に合わせて迫力の歌声が響き渡る。途中、合唱団の立ち位置を変えながら客席への届き具合を確認したりと、歌稽古と空間創造が同時に展開される様子は面白い。また、アンサンブルには当合唱団のほか東京勢も若干加わるので、それを踏まえて勅使川原と山口は音量などの意見交換を行う。

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観たこともない“動くオペラ”が現実のものに――

合唱稽古を一旦区切ると、続いてワークショップがスタート。合唱団員は時に『魔笛』の音楽に合わせて、時に無音の中で歩き続け、舞踊家である勅使川原は彼らに舞台上での身体の在り様についてリクエストを出していく。特に“呼吸”と“足の裏”の感覚を意識させながら音楽と身体の調和をはかる勅使川原は、その言葉の数々で早くも想像力を刺激する。

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ワークショップの様子。余計な力みなしに小幅で歩く動作は、やってみると相当難しい

「アンサンブルには個別のキャラクターはありませんが、ひとりひとり確かな存在の集合体として舞台上にいてください。そうして、闇あるいは光、大地や宇宙、人智を超えた自然界の大きなスケールを表現してほしい。『魔笛』のテーマである、自然の摂理や永遠性、人間の真理、神々の存在、不可思議なもの、宇宙的なもの、円環するエネルギー……、そういったものをアンサンブルが体現するんです」

休憩中には勅使川原の囲み取材が行われ、稽古の狙いを補足。合唱団を含めた歌手陣には、歩くだけでなく上半身を使った動きにも挑戦してもらうとのことで、かねてから言っていたとおり「身体的なオペラ」「動くオペラ」になることは間違いなさそうだ。

「『魔笛』は歌だけでなく、身体表現として、空間表現として、ダイナミックに提示することが大事だと思っています。人間の内面や宇宙の摂理をいかに空間に表すかが問題なので、日常的な装置や演技ではなく、抽象的なもので作品が内包している世界を伝えたいですね。同時に、西洋の思想や宗教観を前提にした『魔笛』を日本向けに翻訳したような舞台にするのではなく、“現在”に目を向け、いま日本人が上演すべき『魔笛』にしたいと考えています」

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自身のデザインした舞台装置を解説する勅使川原。装置では、大小さまざまに存在する金属製の“円”がポイント。いちばん大きなもので直径8メートルもあり、空中や地上を自在に稼働。そこに当たる照明ともあいまって、円卓になったり太陽に見えたりするから楽しみだ。また、円の内側と外側でも意味合いが変わってくるというのも興味深い。もちろん、そのまま彫刻、インスタレーションとしても見応えあり。また、衣裳もかなり抽象的で、例えば登場人物「童子」(画像)のコスチュームは、かわいらしさとユーモアを感じさせて秀逸。

TEXT:小島祐未子

 

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