儚さや繊細さを感じる真っ白な壁画の世界アーティストトーク:佐々木愛

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アーティストトーク:佐々木愛さん
9月11日(日)14:00-15:30 @開発ビル6階会議室

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ロイヤルアイシングという技法で、その土地ならではの世界を壁画として制作している佐々木愛さん。開発ビルで開催されたアーティストトークに参加してきました。佐々木愛さんは大阪府を拠点としたアーティスト。大学ではグラフィックデザインを専攻しており、現在でも本の装丁や挿絵などを手がけられています。幼い頃通っていた絵画教室で朗読を聞いて絵を描くということをよく行っていたため、言葉から連想して描くことに慣れており文字にまつわる仕事が好きだそう。今回、展示している壁画は、その土地がもつストーリーを追いかけることから始まります。そのほかにも、制作にまつわるお話をたっぷりとお聞きすることができました。

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これまでも全国の会場で壁画作品を発表してきた佐々木さん。テーマはその土地にまつわる神話や昔話などを基に決められます。例えば、新潟であれば飛来するオオハクチョウから渡り鳥をテーマにした壁画を作成。実際に展示会場の土地に滞在して、じっくりと土地がもつストーリーに耳を傾けます。町を訪れ、歩き、人に出会い、話を聞くことでテーマが決定します。今回の豊橋会場には47日間滞在したそう。そして、東三河をリサーチする旅に出かけ、愛知県田原市の資料館で、古代、渥美半島や知多半島で製塩が行われ、塩を運ぶことで人の移動が始まり道ができ、のちに街道へと繋がっていたことを知りました。そこで塩が運ばれた道行を辿る今作『はじまりの道』を描くことに決定しました。

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壁画は、アイシングクッキーで知られる砂糖と卵白を使って絵柄を形作る《ロイヤルアイシング》という技で描かれています。美術品だけに使われるような素材ではなく、より多くの人に身近な素材で届けたいという思いから選ばれたそう。また、幼い頃、叔母さまが趣味でシュガークラフトをされていたことも影響しているとか。展示後はすべて撤去されてしまうため、壁画は展示された会場でしか観ることができません。“その土地に滞在して見つけたテーマに基づいた風景を、砂糖でその場にひととき保存する、そしてそのひとときを舞台のような瞬間性で、観た人たちの記憶に残してほしい。”その流れがひとつの作品となっているそうです。

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開発ビルの9階に展示されている作品は、横14m×縦2.6mという大きな壁の中に、あらゆるモチーフがひとつずつ繊細に描かれています。一面真っ白な色と、いつか崩れてしまう脆い線から、儚さや繊細さを感じさせる作品。写真撮影ができるため写真で残すことはできますが、やはり実際に観ることをおすすめします。佐々木さんが丁寧に絞り出したひとつひとつの線からは、見た目の繊細さとは裏腹にパワーを感じることができます。

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トークは佐々木さんのリサーチや制作風景の写真などを交えながら進んでいきました。途中、「私ばかりが話していていいですか?気軽に質問してくださいね」と観客に問いかけるなど、とても和やかな雰囲気。トーク後はファンの方に囲まれる場面も見られました。これからも、様々な土地で、新たな壁画を作り続けていくことでしょう。まずは手始めに豊橋会場の壁画をご覧になってはいかがでしょうか。真っ白な世界はうっとりさせながらも、明日につながる力を感じさせてくれます。

TEXT:小玉みさき (エディマート)

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