趣のあるビルから海外の作品まで岡崎市の展示を巡る

石原邸 外観

国際芸術展「あいちトリエンナーレ2016」が愛知県内各地でスタートした。岡崎市が会場となるのは、前回の2013年に続いて2回目。名鉄東岡崎駅ビル、岡崎表屋、岡崎シビコ、石原邸などが展示会場となっている。開幕初日に各会場を巡り、代表的な作品を眺めてみた。

●名鉄東岡崎駅ビル
鉄道で岡崎会場を訪れた人は、まず隣接する名鉄東岡崎駅ビルから見るのがいいだろう。昭和30年代に建てられたビルの趣のある外観もアートとは別に見て欲しい。トリエンナーレの受付ではレンタサイクルの申込もできるので、利用するのも良いだろう。

名鉄東岡崎駅ビル 受付
名鉄東岡崎駅ビル 受付

2階に登ると通常通りに店舗が営業する風景の中に、美術館のホワイトキューブのような白い壁の空間が見えてくる。壁には素朴な絵のようにディスプレイが掛けられ、ウダム・チャン・グエンさん(ベトナム出身)の映像作品が映し出されている。色とりどりのポンチョに身をまとった集団がオートバイを走らせるパフォーマンスで、ベトナムの都市化と交通に関する諸問題などを考えさせる映像作品。遠目には素朴な絵画のように見えた作品は、近づくと鮮やかで情報に満ちた映像が見る者を刺激する。
グエンさんの作品の横の階段から3階に登ると、二藤建人さん(埼玉県出身)の作品群が展示されている。二藤さんは重力と接触を大きなテーマとしていて、身体と世界の触れ合いから作品を生み出す。徹底的に想像したものと自ら体験したものを力強く結び付けたダイナミックな作品で、鑑賞者の常識を揺さぶっていく。3階は全て二藤さんの展示スペースかと思っていたら、小さな食堂が営業していたのも印象に残った。

名鉄東岡崎駅ビル2階 ウダム・チャン・グエン 「機械騎兵隊のワルツ」
ウダム・チャン・グエン「機械騎兵隊のワルツ」

名鉄東岡崎駅ビル 3階 二藤建人 「空に触れる」
二藤建人「人間、下流へと遡る川」


●岡崎表屋
駅から乙川をわたると、古来から東海道として東西をつないだ国道1号線に出る。1号線沿い、岡崎城のすぐ近くにある岡崎表屋のビルも展示会場だ。戦後まもなく建てられたビルの1階は各種石油製品の販売ほかを行う会社のオフィスとして営業中。非常階段を使って2階・3階へ足を踏み入れると、シュレヤス・カルレさん(インド出身)が作り上げたアート空間が広がっている。カルレさんはインドで制作したオブジェと、建物内の家具や雑貨を利用して、周辺の地理や歴史、文化を視覚化。日本とインドにおける西欧文化の受容について考える場を立ち上げた。

岡崎表屋 ビル全景
岡崎表屋

岡崎表屋 シュレヤス・カルレ 「帰ってきた、帰ってきた:横のドアから入って」
シュレヤス・カルレ「器、船による円周の水平線」

●岡崎シビコ
前回に続き岡崎市の展示で大きな役割を担う岡崎シビコ。6階ではイギリス出身でエジプトを拠点にするハッサン・ハーンさんや、兵庫県出身の野村在さんの作品を見ることができる。

岡崎シビコ6階 野村在 「Untitled(箱に詰められた直径80mの打ち上げ花火」 
野村在「Untitled(箱に詰められた直径80mの打ち上げ花火」

野村さんは彫刻や写真を用いて、作為と無作為の境界に生まれる一瞬の不確かな範囲を写し取る作品を制作しているアーティスト。シビコでは花火、燃焼実験をテーマに、爆発により広がる灰の形、立体に生じるヒビなどを想起させる作品を展示している。
今回のトリエンナーレでは新たな企画として、芸術祭のテーマやコンセプトを支え、出展作品を補間する展示やレクチャーなどを行う「コラムプロジェクト」を展開する。岡崎シビコでは後藤繁雄さん企画による「トランスディメンション-イメージの未来形」の展示が行われている。デジタルカメラや情報通信技術の進化、3Dプリンターの普及、コンピューター・グラフィックの高度化などによって大きく変化する「写真表現の現在」を、横田大輔さんら5組のアーティストの作品でとらえる。

岡崎シビコ6階(コラムプロジェクト) 横田大輔 「Matter/Vomit」
横田大輔「Matter/Vomit」

●石原邸、籠田公園
路地が入り組む六供地区の住宅地の中に建つ古民家の石原邸は、文久2(1862)年に三河国総持寺の石原東十郎によって建てられた国の有形文化財。かつての人々の暮らしのぬくもりが伝わる建物の中で、7組のアーティストが展示を行っている。自動車の駐車は難しいが、建物の脇には自転車を止める駐輪場が設けられている。
柴田眞理子さん(愛知県出身)は陶芸の基本形を踏襲しながら無国籍で抽象的な造形を作り上げる陶芸作家。石原邸の蔵と納屋に作品を展示し、鑑賞者に気に入った作品を手に取り、棚を移動することを促している。
田島秀彦さん(岐阜県出身)は産業用のタイルの絵柄を使って平面や立体作品を作るアーティスト。鑑賞者は畳の上に並べられたタイル装飾とフィルム越しに外の風景を楽しんだ。
同じく六供地区の籠田公園ではジョアン・モデさん(ブラジル出身)の作品「NET Project」が展示中。鑑賞者が参加して、さまざまな素材と色の紐を結びつけていくことで、形を変えていく作品。名古屋、豊橋でも同様に展開されていて、会期終了1週間前から、3つの作品が愛知芸術文化センターに展示される。

石原邸 柴田眞理子 「コンポジション 鈍色と共に」
柴田眞理子「コンポジション 鈍色と共に」

石原邸 田島秀彦
田島秀彦「窓から風景へ」

★田島秀彦 制作現場のレポート記事はコチラ!
★ジョアン・モデ ワークショップのレポート記事はコチラ!

●岡崎会場での舞台芸術、映像プログラム
会期中は映像プログラムや舞台芸術も予定されている。かつての花街・松本町の松應寺では9月17日に、2016年アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされたシーロ・ゲーラさん(コロンビア出身)の『彷徨える河』が上映される。10月6日~10日は、岡崎シビコ屋上で「アジアン・サウンズ・リサーチ」による音楽とアートを組み合わせたパフォーマンスが行われる。

TEXT:竹本真哉

     
    

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