参加アーティスト、ジョアン・モデさん名古屋芸大でワークショップ

mode3

トリエンナーレへの準備が加速 アーティストが次々に来名

国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2016」への参加が決定した国内外のアーティストたちが精力的に愛知県を訪れ、本展会場となる場所を視察している。栄地下にカウントダウンボードが設置されるなど、いよいよ開催に向けて加速し始めた印象だ。
1月21日に参加が発表されたジョアン・モデさんは、ブラジル・リオデジャネイロを拠点に活動するアーティスト。7月下旬に岡崎市内でプレイベントを行う予定のモデさんだが、早速2月中に2度にわたり来日して展示会場となる名古屋、豊橋などをリサーチ。作品の構想を練り始めた。名古屋芸大生とのワークショップの模様をレポートする。

ワークショップ 制作風景

モデさんはさまざまな素材、色の紐を結びつけていく「NET project(ネットプロジェクト)」と名付けた作品制作を、サンパウロ、ベルリン、シュトゥットガルト、レンヌなど世界各地の街の中で行っている。広く一般市民からの参加を求めて彼らの考えに多くを委ねるスタイルで、鑑賞者は自ら紐を手に結び目を作ることで参加者へと変わる。作品はアーティストの手を離れ、ゆったりとした時間の中であらゆる参加者の思いを受けて生き物のように育っていくという。
トリエンナーレ事務局の水野亜依子さんは「キュレイターのダニエラ・カストロさんが、欧米だけではなく広い地域から優れたアーティストに参加してもらいたいという今回のコンセプトに合うと推薦した作家。ただ作品を見せるだけではなく、参加できるプロジェクトを行う作家なので、芸術の普及教育という面でも期待している」と話す。


名古屋芸大生とのワークショップ コミュニケーションが生まれるアート

2月12日、モデさんは北名古屋市の名古屋芸術大学西キャンパスを訪れ、学生たちと本展に向けた作品制作のワークショップを行った。学生たちは学内での募集に集まったメンバーで学科はさまざま。この日は現役学生15人とOB1人が参加。2月8日にトリエンナーレスタッフのレクチャーを受けて同キャンパス体育館で1回目を制作し、モデさんとは初めての作業となる。

ワークショップ スタートのミーティング

この日は好天となったため、中庭でのワークショップ。モデさんは学生たちと芝生に腰を下ろし、自身のアート活動について説明した。「2002年頃にリオのスタジオで始めたとてもシンプルなプロジェクト。最初は結ぶ強さや結び方などを考えながら試行錯誤していた。そのうちに、これは単なる結び目ではないと感じるようになった。人同士の結びつきは時に強くなったり、あっという間に壊れてしまったりする。多様な結び目は私たちの人生にあるいろいろな関係性を思わせた。それからは外に持ち出して不特定多数の誰でも参加できる形にした。あらゆる人種、あらゆる社会的な背景を持った人、そこに参加した人が作品を通してつながる。その多様性がこのプロジェクトの一番豊かな面だと思う」と語り掛けた。
第1回で結び合わせたネットの端を中庭の木々に結びつけてハンモックのように広げた後、第2回制作がスタート。学生たちはビニールや毛糸などさまざまな素材のカラフルな紐を手に取り、自由に結び目を作り始めた。モデさんは通訳担当者とともに歩き回り、学生たちの意見を聞きながら一緒に結び目を作っていく。指導やコントロールをするのではなく、質問があれば答え、アイデアが出たら喜び、自由な創作をうながしていく。モデさんの声掛けでトリエンナーレスタッフや大学職員、取材記者たちも作品作りに参加。アーティスト、鑑賞者、取材者といった立場が曖昧になり、陽光の中、カラフルなネットが広がっていった。

ワークショップ 思い思いに結び目を作る学生たち

時間は約2時間程度と決めているが、休憩したり、話し込んだりと制作はのんびりとした雰囲気。参加者は作業をしたまま、インタビューにも答えてくれる。
空間を使ったインスタレーションを学んでいるという男子学生は「前回のトリエンナーレでは観客側だったが、鉄を使ったワークショップに参加した。同じ材料を使っても人によってできる模様が違うことが面白かったことを覚えている。モデさんの作品はコミュニケーションをとりながら作っていくのが面白い。本展でも制作に参加して、いろいろな人と実際にコミュニケーションをとってみたい」と話す。
造形を学んでいるという女子学生は「勉強している分野とは違うが、実は参加型アートをやってみたいと思っている。人によって結び方、つなげ方が違うので、モデさんの言う『作品でコミュニケーションをとる』というのが作っていて良く分かる。人とのつながりが感じられるアート」と増えていく結び目を眺める。
ワークショップに参加した学生たちは本展でもプロジェクトに協力するという。モデさんは「天気もすごく良かったし、いい環境でやることができた。トリエンナーレにつなげていくための小さな最初の基盤となるような作品。今回作ったものを基にたくさんの人に参加してもらって、大きく広げていきたい」と笑顔を見せた。

ワークショップ 結び目 02


地球の裏側で見た風景 欧米以外から見た世界

各地を回ったモデさんに日本と愛知県の印象を聞いてみた。「日本はブラジルから見ると地球の裏側だし、季節も真逆。子どものような気持ちで見て回り、ポジティブな刺激をたくさん受けた。文化や歴史を保存する姿勢や、ハイレベルなテクノロジーで世界とつながっている部分など、魅了されるところは多いが、四方を海に囲まれている地理的な特徴に強く心が引かれている」と振り返る。
「海に囲まれていることは、日本が侵略をした歴史の要因と言えるだろうか」とスタッフとディスカッションをするモデさんの興味は風景だけではなく、歴史にも及んでいる。昨年10月にリサーチとトークショーで来名した同じくブラジル出身のリビディウンガ・カルドーゾさんも植民地支配された自国の歴史や政治を創作に取り入れている。カルドーゾさんは歴史を踏まえてポストコロニアル思想をベースに創作をしてきたが、過渡期を迎えて国、政府、国境などに縛られない地球規模の視点を模索しているという。日本を巡り、神道に見られるようなアミニズム的な考えに興味を持っていたことが印象深い。
今回のトリエンナーレは世界中から欧米とは違う視点を持った多くのアーティストが集まる。震災が色濃くテーマに反映していた3年前とはまったく違う驚きを提供してくれる作品が愛知の地で生まれ、見る者に問いかけてくる予感がする。

ワークショップ 学生が質問

この夏、愛知にはどんな空間が広がるのか

本展での作品のイメージも沸いているというモデさん。「移民が多いシュツットガルトでやった時はプロジェクトを通して移民問題が浮かび上がってきたし、ブラジルとウルグアイの国境でやった時は境界線を意識させる国をつなぐ作品になった。このプロジェクトはやる土地によって、固有の意味を持つ。私はネットプロジェクトで人や文化が繋がり合っていけると信じている。今回の旅では佐久島で漁師から地元の網の編み方を教わった。構想中だが、海の青色のグラデーションを取り入れた作品を試みるかも。名古屋、豊橋、岡崎の三都市で開催して、それぞれの場所で作ったネットを最終的に合わせられたらいいと思っている。アーティストは提案者で、参加する街の人々が結び目を作っていく。愛知だからこういうものが出来たという作品になるはず。どんな作品になるか予想がつかないところもあるので、私自身楽しみにしている」と話す。

愛知を訪れたさまざまな人々が結んだ三都市のネットがつながった時、私たち愛知在住の人間が驚くような空間が広がるのか。夏の本展を大いに期待したい。

ワークショップ 集合写真

―――「NET Project」プレイベント―――
日時:7月30日(土)、31日(日) 10:00~17:00
場所:図書館交流プラザりぶらストリート広場(岡崎市康生通西4丁目71)
   ※雨天時は、同館2階事務所前での実施

TEXT:竹本真哉

 

サイドナビ