10月11日、愛知芸術文化センター12階アートスペースGにて、パブリック・プログラム クロス・キーワード「さまたげではない障がい:サスティナブルなコミュニティを育むには?」を開催しました。あいちトリエンナーレ2013コミュニティ・デザイナーの菊池宏子さんが、自身でこれまで手がけた障がい者向けプログラムを中心に、海外の美術館の事例を交えながら、障がいとコミュニティづくりについて語りました。
菊池さんが話した海外の事例の中で印象に残ったのが、アメリカのオークランド市にあるクリエイティブ・グロースの活動です。ここは1973年に設立されたNPOによるアートセンターで、主に知的障がいを持つ人に対して、芸術創造のプログラムや、自立・就職のための教育や機会を提供しながら、障がいのあるアーティストの育成にも努めています。彼らがセンター内のスタジオで制作した作品は、ギャラリースペースで販売され、それにより収入を得ることができるのだそうです。
アメリカのボストン美術館などで菊池さんが関わった事例としては、視覚障がいのある人とない人が同等の立場で、どのように館内を誘導したらいいのか、どのように作品を説明したらいいのかを互いに教え合うというプログラムが紹介されました。また、ボストン美術館の案内係を務める富裕層の女性たちに代わって、一日だけ高校生が案内係を務めることにより、区別しない学び合いの場づくりを推進していった事例も紹介されました。
「障がいはチャンス。障がいやさまたげから新たな文化政策が生まれる」という菊池さん。これまでは富裕層に支えられてきたボストン美術館も、どのようなコミュニティを対象に美術館として今後継続していくべきかを考え、夜間ならば来館できる地域の労働者層に向けて開館時間を変更したり、プログラムを設けたりしているそうです。
障がいというと、身体的な障がいや精神的な障がいを思い浮かべがちですが、国籍や人種、年齢、職業、収入などあらゆる差別が社会には潜んでいます。菊池さんのお話から、そうした「障がい」を一つの機会と捉え、お互いを認め合うための取り組みを進めていくことこそが、サスティナブルな社会を育んでいくことにつながると感じました。
(あいちトリエンナーレ2013エデュケーター 田中由紀子)